27取材・文:柴田克彦 日本を代表するヴァイオリニスト・諏訪内晶子が芸術監督を務める「国際音楽祭NIPPON2024」が、24年1〜2月、7企画10公演の多彩なラインナップで開催される。 2013年に始まった当音楽祭も早10年を超えた。 「マスタークラスに参加した辻彩奈さん、上野通明さん、中野りなさんや北村陽さんなどの成長ぶりを見るとあっという間ですね。まずはアウトリーチや学校での演奏を含めて子どもたちに音楽の良さが伝ったら嬉しいですし、私自身も企画を通して色々なアーティストとの関わりや音楽面に広がりが生まれました」 24年は「アーティストが全員揃って、通常の形で行える3年ぶりの音楽祭」。全体像は「ウィーンに焦点を当てたプログラム」だ。 最初に注目されるのが、諏訪内のソロ、サッシャ・ゲッツェル指揮、国際音楽祭NIPPONフェスティヴァル・オーケストラによる「モーツァルト ヴァイオリン協奏曲全曲演奏会(全2回)」。 「ウィーンとなればモーツァルトは外せません。全5曲は調性も形も様々で、オペラのように色々な場面が詰まっていますから、各々を明確に表現し、モーツァルトの世界観を伝えたいと思っています」 指揮のゲッツェルと、当音楽祭で初めて組むフェスティヴァル・オーケストラにも期待を寄せる。 「ゲッツェルはジュリアード時代の同門で、元々ヴァイオリン奏者。以前私が『マスター・プレイヤーズ,ウィーン』で武満徹の『ノスタルジア』を演奏した時、奏者で来ていた彼が急遽行った指揮が本当に素晴らしく、いつか共演したいと思っていました。ウィーン出身で、ヴァイオリンのことがわかり、オペラも振れるので、今回なくてはならない指揮者です。オーケストラは、コンサートマスターを白井圭さんにお願いし、私と彼が依頼した弦の首席奏者や彼らと繋がりのある管楽器奏者、さらにはマスタークラス出身の若手も加わります。モーツァルトはニュアンスが大事で、細部にわたって作り上げていく必要があります。そういうポテンシャルを持った奏者が集まりました」 「室内楽プロジェクト」は、「CLASSIC」と「MODERN」の2本立て。前者は、ベートーヴェン、モーツァルトの他にパガニーニとシューベルト、後者は、ベルク、ウェーベルン、シェーンベルクの他にコルンゴルトと安良岡章夫の作品が入っている。 「CLASSICは『1800年代のウィーンに多大な影響を与えたパガニーニと、その演奏を聴いたシューベルト』に焦点を当てました。MODERNに入れたコルンゴルトは、今回出演するオーストリアのヴァイオリニスト、ベンジャミン・シュミットらにとって大事な作曲家。演奏するピアノ三重奏曲op.1は13〜14歳頃に書かれた天才的な作品です。安良岡さんは新ウィーン楽派から大きな影響を受けた作曲家ということで作品を委嘱しました。実は、高校の時の担任で、私はジュリアードの修士論文で作品を取り上げたこともありました」 また「シューマン 室内楽マラソンコンサート」も行われる。 「とても評判が良かった前回のブラームスと関連が深く、名曲も多いシューマンを取り上げることにしました。海外の奏者や日本の若手、葵トリオやカルテット・アマービレ等が交代で弾きますから、組み合わせの面白さもあります」 このほか、恒例の東北(大船渡)公演、愛知での「ミュージアム・コンサート」、ヴァイオリン(講師は諏訪内とシュミット)、チェロ(講師はイェンス=ペーター・マインツ)の公開マスタークラスも開催される。なお室内楽公演には、前回来日できなかった名教授マインツら講師2人をはじめ、海外の著名奏者が複数出演する。 「クラリネットのポール・メイエは初共演なので楽しみです。そしてピアノのエフゲニ・ボジャノフも参加します。彼とはアルゲリッチ音楽祭(ハンブルク)や読響でのメンデルスゾーンの二重協奏曲で共演していますし、この秋ブラームスのヴァイオリン・ソナタ3曲を録音します。音が綺麗で技術も高く、音楽的にとても面白い奏者です」 これは、どの公演も聴きたくなる、興味津々の音楽祭だ。Profile1990年史上最年少でチャイコフスキー国際コンクール優勝。これまでに小澤征爾、マゼール、デュトワ、サヴァリッシュらの指揮で、ボストン響、フィラデルフィア管、パリ管、ベルリン・フィルなど国内外の主要オーケストラと多数共演。2012年より「国際音楽祭NIPPON」を企画制作し、同音楽祭の芸術監督を務めている。デッカより15枚のCDをリリース。使用楽器は、日本にルーツをもつ米国在住のDr.Ryuji Uenoより長期貸与された1732年製作のグァルネリ・デル・ジェズ「チャールズ・リード」。3年ぶりに通常の形で行える音楽祭は、ウィーンがテーマです
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