eぶらあぼ 2023.12月号
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126今年82歳の秋山和慶は、ミュージックアドバイザーの日本センチュリー響とも相性がよく、見事なチャイコフスキーを造り上げた。勇壮なファンファーレに続く主部は、実に丁寧に端正に作られる。第2主題のファゴットやチェロも、第3主題のデリケートな表情もとても美しい。コーダの加速にも、楽員一体となった自然な気分の高揚がある。緩徐楽章のオーボエ・ソロは美しく、スケルツォのピチカートの合奏精度も素晴らしい。フィナーレも緻密に作られるが、特に運命のファンファーレ回帰以降は、息もつかせぬ緊張と高揚で、ために溜めた力を一気に爆発させる。実に爽快だ。巨匠の芸を堪能させてくれる。(横原千史)2018年に世を去った松下功のメモリアル盤。藝大に入学する前のファゴット作品も収録され、同時代の影響下にある尖った作風から、自らの語法を探りあてその世界を深め広げていった軌跡を明らかにしている。後年、東洋思想、とりわけ仏教に惹かれていったことは、交響曲「陀羅尼」や最晩年のフルート協奏曲「浄土」などに表れているが、それらはエキゾティシズムや妖しさ、躍動感といった感覚的な美によって構築され、万人に胸襟を開く素直なヒューマニズムが創作の根底に流れているのを感じる。自らが組織したアンサンブル東風のメンバーを中心に、そんな故人の横顔が温かく描き出されている。(江藤光紀)心の奥まで響く。雄倉恵子という芸術家の音に、驚きと感銘を受けた。どこまでも深く美しく、華美な要素は皆無、しかし必要な技術は万全。引き算の美学という以上の域。バッハでは舞曲の領域から離れ、和声と音の律動を穏やかな呼吸で示し、その律動は、シューマンらの自然やロマンの境地に入り込みながら、ケージの悠久の彼方まで広がるような美の世界まで、矛盾なく繋がる。そして気がつけば広大な“風景”が現れている。これこそ至芸と言うべきもの。帯や解説で「70余年の歩み」と強調されているが、当盤はまだわずか2枚目のアルバムだという。もっと雄倉の芸術を知りたい。(林 昌英)壮麗極まりない声の饗宴だ。16世紀中葉の英国を代表する作曲家の一人、ジョン・シェパード(1515頃~58)の「ミサ・カンターテ」をはじめとする宗教曲集。6声を基本に時に2声まで自在にテクスチュアを変化させ、一方でミサ曲では各章に共通主題を行き渡らせ曲に大スケールの統一感をもたらす。微視と巨視が両立するその世界を、創立50周年を迎えるタリス・スコラーズが、老舗の読みの深さと変わらぬ鮮度の高いハーモニーで鮮やかに描く。ア・カペラの美点が存分に生かされ、細部まで構造的に聴きこむも良し、引いては打ち寄せるポリフォニーの波に洗われ、ひたすらチルアウトするもまた良し!(矢澤孝樹)J.S.バッハ:イギリス組曲第3番、あなたの慈しみにより我らを殺し あなたの恵みにより我らを目覚めさせ給え(H.コーエン編)/R.シューマン:森の情景/グリーグ:春に寄す/ケージ:風景の中で雄倉恵子(ピアノ)チャイコフスキー:交響曲第4番秋山和慶(指揮)日本センチュリー交響楽団松下功:ファンタジー、オーボエとピアノのためのソナタ、時の糸Ⅰ、海の空間、藤戸、海へ そして夢に、交響曲「陀羅尼」(室内オーケストラ版)、フルート協奏曲「JODO」(浄土)(1管編成版)高関健(指揮) アンサンブル東風 山田恵美子(フルート) 他シェパード:ミサ・カンターテピーター・フィリップス(指揮)タリス・スコラーズGimell/東京エムプラスXCDGIM 053 ¥3300(税込)収録:2022年12月、びわ湖ホール(ライブ)マイスター・ミュージックMM-4523 ¥3520(税込)収録:2022年9月、紀尾井ホール(ライブ)ナミ・レコードWWCC-7990-1(2枚組) ¥4400(税込)コジマ録音ALCD-7298 ¥3300(税込)チャイコフスキー:交響曲第4番/秋山和慶&日本センチュリー響松下功 メモリアル・コンサート2022 ライヴ at 紀尾井ホール風景の中で/雄倉恵子シェパード:ミサ・カンターテ/タリス・スコラーズCDCDCDCD

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