eぶらあぼ 2023.12月号
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122ネルソンスとボストン響のショスタコーヴィチ・交響曲全集の完結編。毎回、組み合わせの意味深さに唸ってきたが、第2、3、12、13番という今回の流れは圧巻である。作曲者とソ連体制との関係の変化が凝縮されているのだ。共産主義の理想を前衛性と平明さの両面で表現した第2、3番。形骸化した社会主義リアリズムの第12番と、ソ連国家の暴挙を告発する第13番。ネルソンスは今回も厚みのある安定した響きを基盤とした、高精度のバランス感覚で聴かせる。だからこそ、それぞれの時期の作曲家の心情が、鏡に映る様に浮かび上がってくるのだ。イデオロギーに向かいあう音楽の、歓喜と絶望。(矢澤孝樹)日本を代表する海外航路の拠点であり、ベルリン生まれで東京育ち、欧州で長年活動するフジコにとっても想い出が深い、港町・横浜で2023年1月に開催された一夜限りの公演を4Kカメラで完全収録。大胆な名曲プログラムに幻想的なステージから手元を映し出すモニター映像まで、そのすべてが“あっけらかん”とした彼女の演奏に相応しい完璧な設え。代名詞である「ラ・カンパネラ」まで一気に聴かせた後に、盟友ヴァスコ・ヴァッシレフ(ヴァイオリン)が登場する豪華さ。オープニング・セレモニー・アクトを務めた陣内大蔵の歌唱などを収録した特典映像も必見。(東端哲也)幅広い活動を続ける現役作曲家の「2台ピアノ」作品を、コンクールの実績もある若手実力派2人が奏でた、鮮烈なアルバム。最初の「PUZZLE」は、同型反復を主体に疾走する鮮やかな作品、次の「夜の時間」は、様々な音が明滅するミステリアスで透明な作品、最後の「迷宮のピアノ」は、色彩的でエンターテインメント性の高い作品……とテイストの異なる3曲が並んでいるので、終始興味深く楽しめる。クリアな音で生き生きとした音楽を紡ぐ2人の演奏も実に見事。まさしく帯に記された「千変万化の色彩と無限に拡がるイマジネーション」を感じさせる1枚だ。(柴田克彦)オペラ、宗教曲のソリストにリサイタルなど幅広く活動を展開するソプラノの三縄みどり。7年振りとなる新録音は文部省唱歌、外国の愛唱歌に新曲が並ぶ意欲作となっている。唱歌の編曲に新作の作曲、さらにピアノを担当しているのは作曲家・ピアニストとして活躍する松下倫士。ピアノ曲に吹奏楽、歌曲と幅広いジャンルを手がける松下の作品は詩の持つ世界を色鮮やかに導き出すもので、三縄の言葉を大切にした歌唱によってそれが見事に花開いていく。松岡陽平のチェロの音色も相まって、優しく包み込まれるような歌の世界を堪能できる1枚となっている。(長井進之介)ショスタコーヴィチ:交響曲第2番「10月革命に捧ぐ」、同第3番「メーデー」、同第12番「1917年」、同第13番「バビ・ヤール」アンドリス・ネルソンス(指揮) ボストン交響楽団マティアス・ゲルネ(バスバリトン)タングルウッド祝祭合唱団ニュー・イングランド音楽院合唱団収録:2019年11月、ボストン(ライブ) 他ユニバーサル ミュージックUCGG-9216/8(3枚組) ¥7500(税込)ショパン:エオリアン・ハープ、別れの曲、ノクターン第2番/ベートーヴェン:月光ソナタ、テンペスト/ドビュッシー:月の光/ラヴェル:亡き王女のためのパヴァーヌ/シューマン:トロイメライ/リスト:ラ・カンパネラ/マイ・ウェイ 〜フジコに捧ぐ〜 他フジコ・ヘミング(ピアノ)ヴァスコ・ヴァッシレフ(ヴァイオリン)収録:2023年1月、神奈川県民ホール(ライブ)ソニーミュージックMHXC-1 ¥5000(税込)木下牧子:「PUZZLE」2台ピアノのための、「夜の時間」2台ピアノのための、「迷宮のピアノ」2台ピアノのための大瀧拓哉 永野光太郎(以上ピアノ)岡野貞一:朧月夜/S.フォスター:夢路より/イングランド民謡:グリーンスリーブス/アイルランド民謡:ロンドンデリーの歌/武満徹:小さな空(以上松下倫士編)/松下倫士:童謡歌曲集「四季の歌」、歌曲集「うつくしいもの」、うたを うたうとき 他三縄みどり(ソプラノ)松下倫士(ピアノ)松岡陽平(チェロ)オクタヴィア・レコードOVCL-00821 ¥3850(税込)ナミ・レコードWWCC-7994 ¥2750(税込)ショスタコーヴィチ:交響曲第2番 他/アンドリス・ネルソンス&ボストン響赤いカンパネラ〜フジコ・ヘミング スペシャルソロコンサート2023〜木下牧子 ピアノ・デュオ作品集「PUZZLE」/大瀧拓哉&永野光太郎うつくしいもの/三縄みどり&松下倫士SACDBlu-rayCDSACD

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