eぶらあぼ 2023.11月号
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第755回 東京定期演奏会 11/3(金・祝)19:00、11/4(土)14:00 サントリーホール問 日本フィル・サービスセンター03-5378-5911 https://japanphil.or.jp11/7(火)19:00 サントリーホール ブルーローズ(小)問 プロアルテムジケ03-3943-6677 https://www.proarte.jp58韻文は、中世人の日常や愛、宗教観や世界観をシンプルな言葉で生々しくとらえていた。これを明快なメロディーに乗せ、現代オーケストラのパワーによって命を吹き込んだのが本作だ。単純な反復が生む陶酔は、古代の祝祭空間を彷彿とさせる。 この呪術的ともいうべき力を秘めたピラミッド・マホガニーで演奏されるのも注目だ。「ベートーヴェンの時代のフォルテピアノの息づかいや繊細さを残しつつ、現代のコンサートホールでも埋もれないパワーをもつ楽器」と語っており、これまで多くのフォルテピアノを演奏するなかで身に付けてきたタッチや音の透明感、当時のアーティキュレーションや色彩のニュアンスなどを、このあたたかみのあるベーゼンドルファーから存分に引き出してくれるにちがいない。そしてつねに楽器の限界に挑み、新しい表現を切り開いてきたベートーヴェンの世界を鮮やかに浮き彫りにしてくれることだろう。文:江藤光紀文:後藤菜穂子小林研一郎作品を、コバケンはこれまで折に触れて取り上げてきたが、日本フィル東京定期での演奏は実に20年ぶりという。ソロには澤江衣里(ソプラノ)、高橋淳(テノール)、萩原潤(バリトン)というベテランを揃え、また合唱には近年評判を高めている東京音楽大学が入り、ベストキャストで臨む。©武藤 章小林研一郎(指揮) 日本フィルハーモニー交響楽団炎のマエストロがたぎらせるプリミティブな音楽 小林研一郎の演奏会では、その熱量に圧倒される。そして熱気の中に、筆者は何かとても根源的な、例えば古くから伝わる踊りや祝祭を幻視することがある。彼のファンも、“炎のコバケン”の、そんな気持ちを底から奮い立たせてくれるところが好きなのだろう。 11月の日本フィル東京定期は、彼のピュアさがストレートに伝わってくるプログラミングとなった。まずはコダーイの「ガランタ舞曲」。バルトークと並びハンガリーの民俗音楽研究の第一人者としても知られる作曲家だ。哀愁に満ちた旋律にはじまりロマ音楽風に高揚する同曲は、コダーイが子どもの頃に過ごした地の民謡に基づいている。東欧圏でも活躍してきたコバケンだけに、固有の民俗性へとずばっと切り込んでくれるはずだ。 後半はオルフ「カルミナ・ブラーナ」。ドイツ・バイエルン地方の修道院に残され19世紀になって発見された古い久元祐子 ベートーヴェン ピアノ・ソナタ全曲演奏会 Vol.1伝統息づく愛器とともに、巨匠の創作を辿る旅立ちへ 2016年から22年にかけてモーツァルトのピアノ・ソナタ全曲演奏会を行ったピアニストの久元祐子が、この秋より新たにベートーヴェンのピアノ・ソナタ全曲演奏会に乗り出す。2027年のベートーヴェン没後200年の節目を見据えつつ、32曲のピアノ・ソナタを通して、彼がこのジャンルにおいて成し遂げた高みをたどる旅だ。 第1回のプログラムは、主としてウィーン時代初期(1792~1802)のピアノ・ソナタから構成される。ボンからウィーンに出てきた若い青年が満を持して出版した作品2のソナタ集より第1番(ヘ短調)、さらに作品7、作品10-1を経て、いわゆる彼のウィーン時代初期の集大成である劇的な「悲愴」(ハ短調)へといたる作風の変遷を味わうことができる。 歴史的楽器の演奏に造詣の深いことでも知られる久元だが、今回のシリーズは愛器ベーゼンドルファー 280VC

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