54 この十数年来、北とぴあ国際音楽祭のおかげで、我々、「フランス・オペラの敏捷さ」を大いに楽しんできた。イタリアものの柔らかくしなやかな旋律美とは一味違う、「寸鉄人を刺す」かのようなスピーディーな音運びが、大革命前までのフランス・オペラの醍醐味なのである。 なにしろ、自分でも踊りを得意としたルイ14世が号令をかけてできたジャンルだけに、ソロの歌や重唱曲、器楽曲、合唱、バレエといった4要素が入れ代わり立ち代わり、同じぐらいの分量で現れるのが当時のフランス・オペラの一大特徴。イタリア語のオペラなら数分かけて愛のアリアをじっくり歌い上げるところ、フランスものだと、時には40秒ぐらいであっさり終わり、短いコーラスを経て華々しい群舞のシーンが現れたりする。言葉の発音と同じく、短く引き締まるのがフランス・オペラの特徴。カラッとしていて、飽きのこない音楽美だろう。 さて、来る12月に北とぴあが上演するのは、大作曲家ラモーの最晩年の傑作《レ・ボレアード》(セミ・ステージ形式)。読んで字のごとく。ホールお馴染みのオーケストラの団名も、本作から採られたもの。このオペラは1763年にパリで舞台稽古を始めたが、なぜか上演は敢行されず、世界初演は200年以上も経った1964年になってから。でも、ラモーの音楽性が高く評価され、今では知名度の高いオペラになっている。 ドラマはバクトリア王国(古代アフガ寺神戸 亮 ©Tadahiko Nagataシリル・オヴィティ与那城 敬 ©Hiromi NAGATOMOニスタン北部)の女王アルフィーズが、北風の神ボレの二人の息子のどちらかと結婚しなければならないのに、別の男アバリスと秘密裡に愛し合うというもの。最後にアポロン神が真実を明らかにし、アバリスはボレの血を引くと分かるので、女王と無事に結ばれる。 音楽面では木管楽器の使い方が一つのポイントに。《レ・ボレアード》では、クラリネットとオーボエのどちらを響かせるか、それを指揮者が慎重に検討することが多い。今回は、マエストロ・寺神戸亮の差配で、演奏ピッチ(A=392Hz)にもすんなり添う、バロック・オーボエを採用とのこと。歌では第4幕第2場のアバリスの崇高なソロが有名。テノールのシリル・オヴィティの清冽な声音を楽しみたい。また、第5幕では男声合唱がアポロン神の出現を荘厳に歌い上げるのも格別の聴きどころだが、この神様役は日本のホープ、バリトンの与那城敬が大司祭アダマスの役と兼ねて歌い上げるとのこと。女王アルフィーズ役には知性派で儚げなソプラノ、カミーユ・プールという豪華なキャスティングである。ラモー作曲 オペラ《レ・ボレアード》(セミ・ステージ形式)12/8(金)18:00、12/10(日)14:00 北とぴあ さくらホール芸大とあそぼう in 北とぴあ 空想お札物語「世界がひとつになるために」11/11(土)11:00、14:00 北とぴあ さくらホール スティッラ・マリス 幾たび別れても 〜名匠に彩られた旋律〜11/23(木・祝)14:00 北とぴあ つつじホールJ-TRAD Ensemble MAHOROBA Concert 〜North to Nowhere〜11/28(火)19:00 北とぴあ さくらホール問 北区文化振興財団03-5390-1221 https://kitabunka.or.jp/himf/※音楽祭の詳細は上記ウェブサイトでご確認ください。レ・ボレアード ©K.Miuraピエール=フランソワ・ドレカミーユ・プール ©LISA LESOURD文:岸 純信(オペラ研究家)松本更紗 このほか、幕切れで次々と踊られる舞曲にも期待大。お馴染みのピエール=フランソワ・ドレの振付&ダンスで、クラコヴィア・ダンツァの面々と松本更紗がステージを華々しく盛り上げるに違いない。先述の通り、バレエ場面も多い作品なので、人々が目まぐるしく入れ替わるステージングを堪能して欲しい。 なお、北とぴあ国際音楽祭では、コンサートも盛りだくさん。箏や三味線、鼓、尺八など気鋭の和楽器集団J-TRAD Ensemble MAHOROBAが繰り広げる圧巻のパフォーマンスや、ルネサンス期から初期バロックのイタリアの曲を「当時流行した、ジャズのような旋律装飾法(ディミヌツィオーネ)」で演奏するグループ、スティッラ・マリスのステージ、それに、「芸大とあそぼう in 北とぴあ」と題する楽しい公演も。藝大の学生および卒業生によるオーケストラの演奏や歌を通じて、今回は「お札の肖像に描かれる有名人たちの空想物語」を舞台化。子どもたちにも楽しんでもらえるステージとのことなので、肩の力を抜いてご鑑賞を!北とぴあ国際音楽祭2023ラモー最晩年のオペラが待望の日本初演!
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