オペラにしたわけですが、何かがどんどん失われていく儚い喪失感は脈々と受け継がれています」杉山「昔はプッチーニやヴェルディを日本語で上演、イタリアの作品を日本に紹介するためでしたが、今回は発想をほぼ逆転。過去の作曲家とは違い、シャリーノさんはまだ元気でいらっしゃるので『《ローエングリン》をどう日本の観客に紹介するか』を本人とも話し合い、『言葉の響きも心機一転して、日本語で上演する』という結論に至りました。イタリア語以外の上演は世界でも初、シャリーノさん自身が『面白い』と考えています。外国から日本に持ち込むのではなく、様々な時代背景も踏まえて日本の側から発想し直したらどうなるか? 従来の紹介を超えた『共有』の部分に、私たちの自発性があります。 プレイベントの『祭り』ではトーク、演奏を通じてシャリーノを身近に感じていただき、神棚からおろすことができればと考えています」 続いてシェーンベルクと向き合う夏田、企画を後押しする沼野の話を聞く。――夏田VSシェーンベルクの組み合わせはどこから?沼野「周年作曲家と現存作曲家の対比自体がいささか“こじつけ”なのですが、これまで現代音楽の演奏会に疎遠だった演奏家も積極的に起用し、新しい聴き手を獲得してきました。2024年はシェーンベルク生誕150年の他、フォーレ没後100年もあり、夏田さんと話し合った結果、シェーンベルクに落ち着きました」夏田「留学先にフランスを選びその系譜に連なる私は、シェーンベルクやベルク、ヴェーベルンら新ウィーン楽派の響きや表現はどちらかというと苦手で、“対決”する相手としては最適ながら、こんなにすごい人もいません。バッハからベートーヴェン、ブラームスへと至るドイツ音楽史の正統な後継者である一方、“無調”という一般の人が近現代音楽に抱く禍々しいイメージの元凶にもなった人です。私を含め現代の作曲家にとって、12音技法を編み出したシェーンベルクの影響は巨大で、いまだ無視できない存在だと言えるでしょう。無調に転じる前の後期ロマン派時代の作品、交響詩『ペレアスとメリザンド』や『グレの歌』は素晴らしいエクリチュール(書法)を備え、大ホールを満たす官能的で輝かしい音響も達成しました。それを自ら引っくり返して『楽しめないゲンダイオンガク』の張本人になった点でも、すごいと思います。 1月の演奏会では前半がピアノのソロとヴァイオリン&ピアノのデュオ、後半が声楽とアンサンブル…と編成をそろえ、歌を含む新作も1曲書きます。『日本の伝統音楽は興味深いが、残念なことに対位法がない』と記したシェーンベルクに、日本の作曲家として一矢報いるつもりです」Information舞台芸術講座 神奈川県民ホール開館50周年記念オペラシリーズ vol.2 サルヴァトーレ・シャリーノ作曲 オペラ『ローエングリン』関連企画シャリーノ祭り 11/18(土)15:00 神奈川県民ホール(小)出演/石上真由子(ヴァイオリン)、山本 英(フルート)、安藤 巴(打楽器)登壇/吉開菜央(『ローエングリン』演出)、杉山洋一(『ローエングリン』指揮)、沼野雄司曲目/シャリーノ:6つのカプリチオ、アトンの光輝く地平線、どのようにして魔法は生み出されるのか、白の探求、繊細な精神の完全性 14の鐘のための補完C×C(シー・バイ・シー) 作曲家が作曲家を訪ねる旅 Vol.5夏田昌和 × アルノルト・シェーンベルク(生誕150年)2024.1/13(土)15:00 神奈川県民ホール(小)出演/丁 仁愛(フルート)、石上真由子、河村絢音(以上ヴァイオリン)、甲斐史子(ヴィオラ)、西谷牧人(チェロ) 須藤千晴、秋山友貴(以上ピアノ)、工藤あかね(ソプラノ)、松平 敬(バリトン)、有馬純寿(エレクトロニクス)、夏田昌和(指揮)曲目/夏田昌和:波〜壇ノ浦、エレジー、美しい夕暮れ、春鶯、新作(神奈川県民ホール委嘱作品・初演) シェーンベルク:組曲 op.25、幻想曲 op.47、弦楽四重奏曲第2番 op.10 より 第3楽章「連祷」、ナポレオンへの頌歌 op.41■ チケットかながわ0570-015-415 https://www.kanagawa-arts.or.jp/tc/33
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