eぶらあぼ 2023.11月号
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それでも踊るそれでも踊る者たちのために者たちのために第109回 「ときには、だまし討ちもする。評論だもの」 舞踏の第一世代である笠井叡は80歳近いが現役のダンサーである。最近ではPerfumeの振付などで名高いMIKIKOが笠井のプライベート・レッスンを受けた感想をテレビで熱く語っていたり、来年1月公演予定の『魔笛』では森山未來、辻󠄀本知彦、菅原小春など、いま最も脂がのっているダンサー達が率先して出演するなど、世代を超えて「ダンスでつながる力」が、ズバ抜けたアーティストである。 そんな笠井は2015年度の舞踊批評家協会賞を、授賞理由が無礼だと抗議して辞退し大きな話題となった(じっさい作品名からして間違えており、内容もひどいものだった)。 で、そんな協会とは無関係なオレだが、日本の舞踊評論の未来のため始めたのが「ProLab 第1期 舞踊評論家【養成→派遣】プログラム」である。最終的には二名をヨーロッパのフェスに連れて行く本気のやつだ(協力:EU・ジャパンフェスト日本委員会)。この講義が、共同主催のDaBY(Dance Base Yokohama)で、ついに始まったのである! 5人の受講生は、大学院生、現役の大手新聞記者、ロンドン在住の著名バレエライター、建築家、ダンスハウスの職員と、年齢も背景もバラバラな、ガチな皆さんが集まった。 第1回講義は身体トレーニング法Gagaで汗を流す。評論家が書くだけですむと思うなよ、という教えである。講師の柿崎麻莉子はGaga考案者オハッド・ナハリンのバットシェバ舞踊団出身だから贅沢な話だ。 続いて応募作で書いたダンス公演『リヴァイザー/検察官』の評を受講者同士で批評してもらう。 ここでオレはトリックを仕掛けた。 相互批評に「補欠」の原稿も混ざっているのだが、じつはこれChatGPT、つまりAIに書かせたものなのだ。ちなみに補欠の名前「田中美穂子」も架空の存在で、「コンテンポラリー・ダンスが好きそうな20代の日本人女性の名前」と入力し、AIにつけてもらったものである。136 とはいえさすがのAIも原稿を一発で書くのは無理なので、細分化したテーマを複数設定し、出てきた原稿をオレが切り貼りした。つながりの微調整こそしたものの、論旨に当たる部分はAIが書いたそのままだ。さて受講者はAIだと気づくのか? 結果からいうと、気づかれなかった。AIと聞いて真剣に驚いている人もいた。 こんなだまし討ちのようなことをしたのは、AIの危機感を肌で感じてほしかったからである。情報をまとめるだけのライター仕事では、遠からずAIに取って代わられるだろう。生き残るためには、AIが情報源にするような第一次の原稿を書く、舞踊評論家になるしかないのだ。 たださすがに受講生は優秀で、年代の間違いを指摘したり、「この人はダンスを習ってみたらいいと思う」と「AI原稿の身体感覚の無さ」を見抜いたりしていたのだった。 第2回目の講義ではオレが考案した「破壊校正」をしてもらった。これはわざと自分の文体を崩す訓練である。諸刃の剣なので、前提作りや進行の仕方にはコツがいる。しかしうまくやると劇的に変わる。受講者からは「自分の文章に自由を感じた」という声が多く聞かれた。 講座は月に1回で全5回。こんな挑戦にあふれた評論講座は、ちょっとない。オレも色々と試させてもらうぜ! あとオレが公式アドバイザーをしているフェス『踊る。秋田』が10月末にあるのでよろしく!Profileのりこしたかお/作家・ヤサぐれ舞踊評論家。『コンテンポラリー・ダンス徹底ガイドHYPER』『ダンス・バイブル』など日本で最も多くコンテンポラリー・ダンスの本を出版している。うまい酒と良いダンスのため世界を巡る。http://www.nori54.com乗越たかお

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