eぶらあぼ 2023.11月号
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132デビュー10年目で意欲に燃える福田進一と、当時還暦を迎え円熟味を増していた小林道夫。クラシックギター+チェンバロ/フォルテピアノという異色デュオの名盤が30年の時を経て蘇った。彼らの指先からつま弾きだされる音は混じりあってはじける泡のように軽快に鳴り、すっきりとしたサウンドを作っていく。ポンセの表題作では端正な作りの中にふっと妖しく、艶っぽい表情を浮かべる。続く3曲はバロック―古典派の作品だが、どれも華やかで明るく感覚を心地よく刺激してくる。ベートーヴェンによる《魔笛》変奏曲(恋人か女房があればいいが)は、二人の掛け合いがとりわけチャーミングで楽しい。(江藤光紀)崎川晶子はチェンバロで、バッハ音楽の奥行きを堪能させてくれる。「パルティータ第4番」の序曲の華やかな付点リズムの響きと、フーガの輝かしさと壮麗さの見事な弾き分けから惹き込まれる。ゆったりとしたアルマンドはとても美しく歌われる。ジーグではフーガの声部書法が克明に描かれる。二重フーガの凝った展開もあり、ウキウキと心弾む。「フランス風序曲」の冒頭のフーガは、協奏曲のようにトゥッティとソロが交替するようで面白い。中間の舞曲楽章で、舞曲の性格がはっきりした主部と、繊細で美しい中間部が鮮やかに対比づけられ、聴き応えがある。バッハの才能に改めて感服。(横原千史)山形交響楽団創立名誉指揮者の村川千秋が90歳の卒寿記念公演に選んだのは、最も愛するシベリウスの第3交響曲。1972年の結成から半世紀を経て、山形の風土とシベリウスの音楽の相性の良さが最高の形で示された。なんと輝かしく豊かなのか。自然体で力みはないのに、すべての音にエネルギーと覇気が満ちる。しかも美感は保たれ、繊細さや滋味、幽玄な情趣も十分で、背景の細かい刻みやトレモロは一瞬も疎かにされない。村川の充実、山響の実力を十全に示すばかりか、本作のファーストチョイスとなり得る畢生の名演。別収録の「カレリア組曲」も同様。村川の卒寿からの新全集を熱望する。(林 昌英)幅広いレパートリーを誇り、現代音楽の演奏でも高い評価を受けているピアニストの長尾洋史。アンサンブル奏者としても多くの演奏家から厚い信頼を集める。そんな彼の精巧なピアニズムによって紡ぎ出される音楽の世界は、非常に雄弁である。本盤は2020年からリリースされている「ピアニズム・シリーズ」の第5弾。長尾の奏でる透明感のある音色の美しさ、ニュアンスの多彩さが際立つ内容となっている。2つの技巧的なソナタにおけるテクニックにはやはり圧倒的なものがあるが、特筆すべきはロンド イ短調(K.511)であろう。曲に漂う哀しみが様々に変化しながら奏でられ、心を鷲掴みにされてしまう。(長井進之介)J.S.バッハ:パルティータ第4番、ラウテンヴェルク組曲、フランス風序曲崎川晶子(チェンバロ)モーツァルト:ピアノ・ソナタ K.494/533,K.457、ロンド K.511,K.485、幻想曲 K.475長尾洋史(ピアノ)ポンセ:ギターとチェンバロのためのソナタ 〜ギターと鍵盤楽器のための作品集〜/福田進一&小林道夫ポンセ:ギターとチェンバロのためのソナタ/シュトラウベ:ソナタ第1番/ベートーヴェン(カルッリ編):モーツァルト《魔笛》より〈恋人か女房があればいいが〉の主題による10の変奏曲/ジュリアーニ:パイジェルロ《水車小屋の娘》より〈うつろな心〉の主題による大変奏曲とポロネーズ福田進一(ギター/19Cギター)小林道夫(チェンバロ/フォルテピアノ)マイスター・ミュージックMM-4522 ¥3300(税込)バッハ―音のあはひ/崎川晶子シベリウス:交響曲第3番、カレリア組曲、交響詩「フィンランディア」/村川千秋&山響シベリウス:交響曲第3番、カレリア組曲、交響詩「フィンランディア」村川千秋(指揮)山形交響楽団ピアニズム5 モーツァルト:ピアノ作品集/長尾洋史コジマ録音ALCD-1219 ¥3300(税込)収録:2023年1月、やまぎん県民ホール(ライブ) 他妙音舎MYCL-00045 ¥3520(税込)録音研究室(レック・ラボ)NIKU-9054 ¥3080(税込)CDCDSACDCD

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