eぶらあぼ 2023.11月号
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130ショスタコーヴィチ:交響曲第4番/ジョナサン・ノット&東響ベートーヴェン:ピアノ協奏曲第1番、エリーゼのために 他/アリス=紗良・オットサクソフォン界の若手トップランナー、上野耕平の4年ぶり5枚目のソロ・アルバム。1930~50年代に書かれたフランスの作品を集め、しかもすべてが名手マルセル・ミュール絡み(委嘱や献呈作、彼が教授を務めるパリ音楽院の試験曲)という筋の通った内容だ。上野は澄んだ音色で鮮やかな演奏を展開。冒頭の「スカラムーシュ」から精彩と生気に富んだ音楽が耳を奪い、次々に繰り出される名技と自在の表現に魅せられる。無伴奏のカデンツァがある後半のプラネルとデザンクロ、全曲無伴奏のボノーの各作は特に聴き応え十分。ピアノの高橋優介も的確な助演者となっている。(柴田克彦)複雑な曲の精髄を鮮明に聴かせることにかけて現在屈指のコンビ、ジョナサン・ノットと東響が、ショスタコーヴィチの謎多き大作、交響曲第4番で強烈な名演を実現した。実演ではその精度と大迫力に圧倒されたが、録音でもいかに正攻法で楽曲の真髄に迫った快演だったかが確認できる。第1楽章のどんなに輻輳する場面でも分離のよさと明度が保たれ、破壊的な大音響がクリアに響き渡り、プレストの超難所が明晰かつ熱狂的に奏でられる。逆に第3楽章の単純な音型の連続する場面は、あえてオーケストラを追い込み、ギリギリを攻めて興奮を誘うなど、ノットの劇的感覚も見事。(林 昌英)紫園香は、東京藝術大学附属高校、同大学、同大学院をすべて首席で卒業したフルーティスト。20世紀最高の演奏家であり指導者と評されるマルセル・モイーズの薫陶も受け、多彩な演奏活動を展開。バッハの作品は彼女にとって特に重要なレパートリーで、今回のディスクには紫園の精緻な技術、美しい音色の魅力が詰まっている。チェンバロの藤井一興をはじめとする信頼厚い共演者と奏でられるバッハは一つひとつの楽想が丁寧に浮かび上がり、それぞれの構造や表情を楽しめるものとなっている。特に印象的なのがあたたかな響きで、やさしく寄り添うようなバッハに心が満たされていく。(長井進之介)アリス=紗良・オットによる久々のベートーヴェン・アルバム。今回のメインは、カネラキス指揮オランダ放送フィルとのピアノ協奏曲第1番だ。均質な粒立ちを保ったまま、明朗快活に進むピアノ。ときおり翳りを帯びた表情の変化も引き立つ。颯爽としつつも折目正しいオーケストラとのコラボレーションも心地いい。ソナタ第14番「月光」は、ミニマル音楽を思わせるクールなタッチから情熱を引き出してみせた。13年ぶりの再録音となる「エリーゼのために」は、以前の演奏よりテンポがずいぶん速い。表情の切り替え、そして声部の重ね方などサウンドの設計がより明確になった。 (鈴木淳史)ミヨー:スカラムーシュ/デュボワ:ディヴェルティスマン/ボザ:アリア/プラネル:プレリュードとサルタレロ/ボノー:ワルツ形式によるカプリス/デザンクロ:プレリュード、カデンツァとフィナーレ上野耕平(サクソフォン)高橋優介(ピアノ)ショスタコーヴィチ:交響曲第4番ジョナサン・ノット(指揮)東京交響楽団ベートーヴェン:ピアノ協奏曲第1番、ピアノ・ソナタ第14番「月光」、バガテル イ短調「エリーゼのために」、同ハ長調/ハ短調「喜びと悲しみ」、11のバガテル、アレグレット ロ短調アリス=紗良・オット(ピアノ)カリーナ・カネラキス(指揮)オランダ放送フィルハーモニー管弦楽団ユニバーサル ミュージックUCCG-45084 ¥3080(税込)J.S.バッハ:フルートソナタ ロ短調 BWV1030、同ホ長調 BWV1035、同ホ短調 BWV1034、ソナタ ホ短調 BWV526(W.&G.キルヒナー編)、トリオソナタ ト長調 BWV1038紫園香(フルート)藤井一興(ハープシコード)沼田園子(ヴァイオリン)北本秀樹(チェロ)ナミ・レコードWWCC-7989 ¥2750(税込)イープラスミュージックem-0033 ¥3000(税込)収録:2022年10月、ミューザ川崎シンフォニーホール(ライブ)オクタヴィア・レコードOVCL-00823 ¥3850(税込)CDSACDCDCDEau Rouge/上野耕平J.S.バッハからの贈りもの〜紫園香オールバッハ作品集〜

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