eぶらあぼ 2023.10月号
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【Ⅰ】フアン・ディエゴ・フローレス テノール・コンサート2024.1/31(水)19:00 【Ⅱ】フアン・ディエゴ・フローレス & プリティ・イェンデ オペラ・デュオ・コンサート2024.2/4(日)15:00 【Ⅲ】アスミク・グリゴリアン ソプラノ・コンサート〈Aプロ〉2024.5/15(水) 〈Bプロ〉5/17(金)各日19:00東京文化会館セット券10/3(火)発売(WEB先行発売あり)■ NBSチケットセンター03-3791-8888 https://www.nbs.or.jp30左より:フアン・ディエゴ・フローレス ©Gregor Hohenberg_Sony Music Entertainment/プリティ・イェンデ ©Graff/アスミク・グリゴリアン ©Algirdas Bakas文:香原斗志「『新星』のうちに来日してほしい。近い将来、高嶺の花になるのはまちがいないのだから」と書いたが、願いが早く叶ってうれしい。それも相性抜群のフローレスと、ロッシーニ、ドニゼッティの《ルチア》や《連隊の娘》などの珠玉の重唱も聴かせてくれるのだから、うれしさ倍増、いや、10倍増かもしれない。 加えて興奮したのは、「アスミク・グリゴリアン」の名を見たときである。欧米におけるグリゴリアンの活躍は耳にしていた。なにしろ、わずかな間にウィーン国立歌劇場、ミラノ・スカラ座、英国ロイヤル・オペラ・ハウス、メトロポリタン歌劇場、ザルツブルク音楽祭、バイロイト音楽祭…と、欧米の主要なオペラシーンを軒並み席巻し、強烈な印象を残していたからである。 そして昨年秋、ようやく東京でも演奏会形式の《サロメ》で、その歌唱が披露された。リリックで美しい声と力強さ、声の精緻な制御と骨太の表現が奇跡的に両立した、圧倒的な名唱だった。いま世界でもっとも旬の「名歌手」であることを疑う余地はない。しかもコンサートは二晩。第一夜ではプッチーニ、第二夜ではR.シュトラウスと、彼女のレパートリーの中核を、それぞれに楽しめるのもありがたい。 3人の名歌手には、スポーツでいえば大谷翔平に匹敵する問答無用の力がある。天与の才を適切な訓練によって磨いた彼らの至芸は、もはや声楽やオペラを超えて、聴く人に強い感銘を与えてくれるはずである。NBS旬の名歌手シリーズ2024正真正銘の名歌手を存分に味わえる特別な空間 だれかを「名歌手」と呼ぶときは、一般に誇張も多いものだが、「NBS旬の名歌手シリーズ」にかぎっては、正真正銘の「名歌手」ばかりだから驚く。筆者は今春、『魅惑のオペラ歌手50』という本を上梓したが、これまでシリーズに登場したソニア・ヨンチェヴァ、フアン・ディエゴ・フローレス、リセット・オロペサ、ルカ・サルシはみな50人に含まれていた。 そして、うれしいことにフローレスが再登場する。1990年代後半から毎年のように彼の歌を聴き続けてきたが、無類のテクニックと音楽性、知的な表現、エレガンスにおいて、この「100年に1人」といわれるテノールは、いまなおだれも寄せつけない。今年4月にミラノ・スカラ座で聴いたドニゼッティ《ルチア》のエドガルドも、筆者にとって、この役のあらたなスタンダードになった。 しかし、ここ数年で一番印象に残ったフローレスの歌唱は、2018年にイタリアのペーザロで聴いたロッシーニ《リッチャルドとゾライデ》におけるものだった。小さな音符が並ぶフレーズを俊敏に歌いつつ超高音を輝かせる。歌唱ににじむ気品と相まって鮮やかなリッチャルド役だったが、ゾライデ役の華麗で変幻自在な歌唱との相性も抜群で、感動が倍加したのである。そのソプラノは南アフリカ出身のプリティ・イェンデ。なんとフローレスのソロ・コンサートに続き、イェンデとのデュオ・コンサートまで企画されているではないか。 豊かな声をなめらかに発してフレーズに生命を通わせ、難しい装飾歌唱も精緻に歌いこなすイェンデ。そのみずみずしく輝かしい歌唱は、一度浴びたら打ちのめされる。ベッリーニ《清教徒》のエルヴィーラでは、エレガントなレガートと燦然たる超高音に圧倒させられた。《リッチャルドとゾライデ》では、小さな音符の連なりを華麗に駆ける抜群の「運動能力」に言葉を失った。 「METライブビューイング」などでもすばらしいが、あの圧倒的な輝きは実演で味わいたい。著書に

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