第108回 「『韓国のアフリカ』でダンスフェス」 「テフリカ」という言葉をご存じだろうか。韓国第3の都市・大邱(テグ)市があまりにも暑いので「テグは韓国のアフリカ(テグ+アフリカ)」を指すスラングらしい。たしかに東京を凌ぐ暑さだった。そんなテフリカに行っていたのは、オレがNDA(New Dance for Asia)国際ダンスフェスの公式アドバイザーであると同時に、その中で行われるスペインのマスダンザ・セレクションの審査員も兼ねているからである。 第12回となる今回のNDAは8ヵ国40組のアーティストが出演した。大邱は芸術監督ユ・ホシクの地元なのだが、開催地をソウルからこちらに移して以降、プログラムの強度が増しており、見応えがあった。 しかし今回、驚いたのはマカオの作品である。申し訳ないが従来のマカオ作品はコンセプトやポップさに寄り過ぎなものが多かった。しかし今回は強い身体性とコンセプトが濃厚に絡み合っていた。アルベルト・ガルシア Albert Garcia『この場所を屋根無しのままにしておく』は、赤いシートの上で男女の世界が展開するが、次第にその場所は小さく、失われていく……という作品。準優勝にあたるNDA賞を受賞した。クー・マン・イアン Ku Man Ian『A Big Big Step to be Here』は演劇的な要素もありつつ、がっしりした体格の女性で身体の存在感を示した。 「ど、どうしたマカオ!? なにがあった?」と他の海外ディレクター達もマカオのディレクター、ステラ・ホーに群がった。しかし彼女いわく、とくに国や体制に大きな変化があったわけではないという。むしろ若いダンサー達が自主的に横のつながりを作って、一緒にワークショップやクリエーションを重ねるようになり、全体のレベルがどんどん上がっていったのだそうだ。 同じ状況は、日本の若手にも見られる。コンテンそれでも踊るそれでも踊る者たちのために者たちのためにProfileのりこしたかお/作家・ヤサぐれ舞踊評論家。『コンテンポラリー・ダンス徹底ガイドHYPER』『ダンス・バイブル』など日本で最も多くコンテンポラリー・ダンスの本を出版している。うまい酒と良いダンスのため世界を巡る。http://www.nori54.com152ポラリー・ダンスの初期はカリスマ的な振付家を中心とした共同体の様相で、一緒に稽古を重ねて濃厚な身体言語を磨いて共有していった。他カンパニーとの交流は皆無。しかしいまやカンパニーのくくりは曖昧で、ダンサー同士も流動的につながり、様々な情報を共有している。なにより皆、仲が良い。日本の場合はカンパニーの維持が難しい経済的な理由もあるが、マカオはカジノの税収がすごいので、必ずしも金銭面が理由とは思えない。情報共有が前提のネット社会で育ったデジタルネイティブな世代が、国を問わず、状況に合った新しい関係性を築いていると考えた方が合理的だろう。 さてNDAでは昨年準優勝だった南阿豆が新世代の舞踏の可能性を見せる記念公演を行ったほか、ジャグリングとダンスの新機軸を見せた山村佑理など日本勢も活躍していた。10月の『踊る。秋田』国際ダンスフェスでは他を圧する驚異的なダンサー、ソ・ジョンビン Seo Jeong Bin等、NDAからも多数出演する。 そして最後に、8月30日にNDA芸術監督のユ・ホシク&パク・ヒュンア夫婦に赤ちゃんが生まれた。じつはその20日前には、オレが11月にレクチャーをする北陸ダンスフェスティバルの芸術監督・宝栄美希さんも無事出産している。ダンサー兼芸術監督の2組のカップルに幸あれ!乗越たかお
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