eぶらあぼ 2023.10月号
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146ハイドン:交響曲集 Vol.21/飯森範親&日本センチュリー響浪漫の薫り/鈴木大介鬼才ファジル・サイと同世代の友人フリーデマン・アイヒホルンによるシューマンを軸にしたアルバム。表情豊かな両者が絡み合うロマンティックで雄弁な演奏が、全編にわたって展開されている。中でも「F.A.E.ソナタ」は、各楽章の特質の差異と楽曲としての統一感が共生した好演で、全曲を聴く機会が稀な同曲の魅力を堪能させる。《トリスタンとイゾルデ》もヴァイオリンの効果を生かしたサイの編曲(世界初録音との由)が見事。演奏も濃厚で、出だしから耳を惹きつけ、やがて圧倒的な高揚感が表出される。サイのおかげでヴァイオリン曲のピアノ・パートに光が当たる点も意義深い。(柴田克彦)飯森範親と日本センチュリー響による「ハイドンマラソン」ライブ録音の第21弾は、1770年代後半に書かれた3つの交響曲を収録。明るく落ち着いた華やかさが特徴のハイドン演奏だ。第69番「ラウドン将軍」は、折目正しいフレージングが洒脱さも導く。第71番も、はんなりとした味わい。第53番「帝国」も冒頭楽章序奏から、奇妙なほど悠然たる流れ。メヌエット楽章ではフェルマータを強調し、しゃちほこばった主題がにゅるっと溶解していく効果も。大真面目な顔をすることで、ユーモラスな仕掛けをさりげなく示すこの時代のハイドン作品。そのツボをよく押さえた演奏だ。(鈴木淳史)ピアニスト石井琢磨は東京藝大、ウィーン国立音大修士課程で学び、エネスク国際コンクール日本人初の第2位受賞者、約24万人の登録者を誇るYouTuberでもある。注目の最新アルバムは「Szene」と題し、10年以上暮らしたウィーンに思いを馳せてJ.シュトラウス2世「皇帝円舞曲」を中心曲とし、映画やバレエ、オペラの印象深い“シーン”の音楽を集めた。「眠れる森の美女」「ペール・ギュント」『ティファニーで朝食を』『ニュー・シネマ・パラダイス』からの楽曲が、技巧的で華やかなピアノ編曲で収められ、石井のブリリアントな演奏表現が冴え渡る。    (飯田有抄)日本のクラシックギター界を牽引する鈴木大介が、自身初となる8弦ギターで紡ぐ19世紀ロマン派ギタリスト&作曲家たちの芳醇な世界。後半に収録されている、フランス東部生まれのコストとハンガリー(現スロバキアの首都ブラチスラヴァ)出身のメルツが書いた多弦ギターのためのオリジナル曲が圧巻だが、彼らが憧れたメンデルスゾーン作品の鈴木編曲版も聴きどころ。加えて7弦ギターを普及させたロシア・ギター界の祖シクラの弟子にあたるアレクサンドロフの手によるシューベルトの有名曲2編、ショパンのマズルカ(ポーランドの舞曲)集に同郷のボブロヴィッツが挑んだ8編も必聴。(東端哲也)ハイドン:交響曲第69番「ラウドン将軍」、同71番、同53番「帝国」飯森範親(指揮)日本センチュリー交響楽団チャイコフスキー(プレトニョフ編):組曲「眠れる森の美女」よりアダージョ/マンシーニ(菊池亮太編):『ティファニーで朝食を』より〈ムーンリバー〉/J.シュトラウス2世(ペナリオ編):皇帝円舞曲/グリーグ(ギンスブルク編):劇音楽「ペール・ギュント」第1組曲より〈山の魔王の宮殿にて〉 他石井琢磨(ピアノ)イープラスミュージックem-0030(初回限定盤) ¥4000(税込)em-0031(通常盤) ¥3000(税込)シューベルト(アレクサンドロフ編):子守唄/ショパン(ボブロヴィッツ編):マズルカ第1番〜第8番/メンデルスゾーン(鈴木大介編):ヴェネツィアの舟唄第1番、同第2番/コスト:ジュラの想い出(アンダンテとポロネーズ)/メルツ:ハンガリー風幻想曲 他鈴木大介(ギター)CD愛の死 ヴァイオリンとピアノのための作品集/フリーデマン・アイヒホルン&ファジル・サイシューマン:ヴァイオリン・ソナタ第1番、3つのロマンス/ディートリッヒ/シューマン/ブラームス:F.A.E.ソナタ/ワーグナー(サイ編):楽劇《トリスタンとイゾルデ》より「第1幕 前奏曲」「第3幕 イゾルデの愛の死〈おだやかに静かに彼がほほえんで〉」フリーデマン・アイヒホルン(ヴァイオリン)ファジル・サイ(ピアノ)NAXOS/ナクソス・ジャパンNYCX-10413 ¥2200(税込)SACDCDSACD収録:2021年9月&2022年5月、ザ・シンフォニーホール(ライブ)オクタヴィア・レコードOVCL-00824 ¥3850(税込)アールアンフィニMECO-1078 ¥3850(税込)Szene/石井琢磨

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