SACD『浪漫の薫り』アールアンフィニMECO-1078 ¥3850(税込)8/23(水)発売10/6(金)19:00 ヤマハホール問 プロアルテムジケ03-3943-6677 https://www.proarte.jp70Interview鈴木大介(ギター)ロマン派ギタリストの“理想”を現代の楽器と演奏技術で甦らせる取材・文:小川智史 斬新な切り口でギター・レパートリーを拡充してきた鈴木大介の最新CD『浪漫の薫り』には、低音を拡張した「8弦ギター」という特殊な楽器が使われている。 「フルートやオーボエの伴奏で通奏低音を弾くときや、ソロでバッハのリュート作品を弾くときなどに、『もう少し低音域があれば』と思うことが実は以前からよくありました。昔からお世話になっているギター製作家の今井勇一さんに5本目のギターを依頼できたタイミングで、8弦ギターをお願いしてみようと思ったのはそういう経緯があります」 ギターが現在のように6単弦で定着したのは19世紀初頭だが、ピアノの進化などを目の当たりにして、19世紀中葉には7弦から10弦までのさまざまな「多弦ギター」が開発された。 「2005年にバンコクのギター・コレクターを訪問して、メルツが使っていたシェルツァー・モデルの10弦ギターを弾かせてもらったことがあります。通常の6弦に加えて、低音側に(開放のみで弾く)番外弦4本があるギターですが、これだと通常弦と番外弦が離れすぎていて、『ハンガリー風幻想曲』のような速い曲を現代の一般的なテンポで弾くことが想像できませんでした。挑む。各作曲家は優れたピアニストでもあり、楽器の様々な可能性に着目してドラマティックな作品を残したため、いずれも魅力的な楽曲となっている。その分、内容や構成を深く理解し、色彩豊かに演奏するのは至難の業。しかし古市の鮮やかな指さばき、透明感がありつつもニュアンスに富んだ音色はそれを見事に実現し、音楽によるドラマを鮮明に届けてくれるはずだ。和音をクリアに響かせるためにベース音を適切にミュートすることもできません」 実際にこのタイプの10弦ギターを使用した海外のCDなどには、現代の演奏法とは異なるアプローチをとるものが目立つ。多弦ギターのための作品でも現在ほとんど6弦で弾かれるのは、そうした問題も影響しているだろう。 「音域の広さと楽器としての柔軟性を両立させるのに、指板幅を拡張した8弦ギターがひとつの解決策に思えて、多弦ギターの開発にある種の希望を見出していたロマン派ギタリストたちの作品にまず取り組むことにしました。現代の楽器製作技術と演奏法なら、彼らが目指した先にいけるのではないかと」 今回の目玉といえるショパンのマズルカ集は、ポーランド出身のギタリスト、ボブロヴィッツが原曲の出版からわずか3年後に、同じキストナー社から出版した編曲譜だ。 「ボブロヴィッツの編曲は6弦ギター用ですが、再現性が高い代わりに無理のある部分も多い。弦が2本増えたことでそれをある程度解消できて、よりピアノのイメージに近づけることができたと思います」 そのほか編曲、ギター作品を問わず、豊かな低音域を最大限に活用した、ある意味では“ギターらしからぬ”聴き応えのあるCDに仕上がっている。ギター愛好家はもちろん、ギター音楽に馴染みのない方にもぜひ手にとっていただきたい一枚だ。©FUKAYA Yoshinobu / auraY2文:長井進之介©Tomoko Hidaki古市明里 ピアノリサイタル地歩を固める若き俊英がヴィルトゥオジティで魅せる ピアニストの古市明里は、武蔵野音楽大学ヴィルトゥオーゾ学科、同大学大学院修士課程ヴィルトゥオーゾコースをそれぞれ首席で卒業・修了。様々なコンクールで優勝や上位入賞を重ね、キャリアを積み上げてきた。活発な演奏活動を展開しながら、後進の指導にもあたる彼女は、着実にレパートリーを広げている。 今回のリサイタルではドビュッシーの前奏曲集第1集からの抜粋にスクリャービンの「詩曲」、そしてリストの「2つの伝説」に「死の舞踏」と、高い技巧と鮮烈な表現力が求められる作品に
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