eぶらあぼ 2023.9月号
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Interview平田オリザ(作/演出)音楽と演劇の鬩せめぎ合いから広がる新しい光景44 音楽の夢は、音楽だけに留まるものではない。他分野の芸術との交感にも鮮やかな意欲を示してきた庄司紗矢香が、この秋、演劇とのコラボレーションに臨む。平田オリザが新たに脚本と演出を手がけ、彼が主宰する青年団の渡辺香奈、井上三奈子、大竹直が、演奏家たちとともに舞台に上がる。平田がディレクターを務める「豊岡演劇祭」、庄司が音楽祭を始めたいと願う直島、そして神奈川県立音楽堂で披露される新作、『ふるさと』と題された「庄司紗矢香 音楽と言葉の旅」の誕生だ。 細川俊夫作品をはじめ、オペラの演出を通じてもヨーロッパでの評価が高まる平田オリザにとって、そもそも音楽とはどのようなものだろう? というのも、青年団の舞台を観てきても、音楽の記憶はないのだ。俳優が伝える台詞が、静謐な音楽を織りなしていたほかに。 「細川さんの《班女》が2012年ですから、音楽との関わりはまだ10年。演劇の人間、オペラの外側の人間なので、客観的に作品を捉え、作曲家と指揮者とソリストをどう引き立たせるかが自分の役割だと思っています。今回はまた別の、思いがけないところからお声掛けをいただいて、しかも庄司紗矢香さんのオファーですから、ちょっとびっくりしました」と平田オリザは言った。 庄司紗矢香という音楽家を、表現者としてどのようにみているのだろう。 「トップ・アスリート並みというか、なにか修行僧のようなところがあって。戯曲を読み込むタイプの俳優さんのように、楽譜と向き合い、読み込むことを、とても大切になさっているのだろうと感じます。庄司さんの能力を最大限に抽き出すような舞台にできればと思っています」 曲はショーソンのコンセール。庄司のヴァイオリン、モディリアーニ弦楽四重奏団とベンジャミン・グローヴナーのピアノによる濃密なアンサンブルが演奏する四つの楽章の間に、三たび演劇が入る構想だという。 「今回の作品は、現代音楽とは違うので、その分冒険をさせていただいたというか、クラシック・ファンの方には怒られるかもしれないところにちょっと踏み込んでみたいなと思って劇作をしました。いろいろな演奏家のCDをずっと聴いて、ショーソンの音を身体に馴染ませるような感じで書きました。そこに楽理的な整合性があるわけではないのですが、『こういう繋げかたもあるかな』と感じていただける作品になっていればいいなと思います」 他分野の芸術にも関心が深かったショーソンだけに、「想像力の触発」が「今日における芸術の意義を柔軟に考え」る機会になれば、というのが、庄司紗矢香の期するところだ。 「ショーソンの伝記などもいろいろ読んだのですけれど、決して順風満帆な人生ではなくて、それがなにか寂しげだったり、儚かったり、でも野心とか『頑張ろう!』みたいなところもあって、いろいろとないまぜになっている楽曲だとシリーズ「新しい視点」 庄司紗矢香 音楽とことば 未来への回帰9/20(水)19:00 神奈川県立音楽堂問 チケットかながわ0570-015-415 https://www.kanagawa-ongakudo.com他公演9/16(土) 兵庫/豊岡市民会館 文化ホール(豊岡演劇祭実行委員会事務局0796-21-9016)9/18(月・祝) 香川/直島ホール(ジェスク音楽文化振興会03-3499-4530)私は感じました。そのことと、私自身が移住をして4年目なのですけれど、いまの日本の地方都市の風景を重ね合わせながら書いていきました」 演奏と演劇を行き来すること自体、あるいは移住に近い感覚を私たちに呼び覚ますのかもしれない。 「『ふるさと』に戻ってきた人間、戻ってこない人間……なにかないまぜになった感情のようなものが、うまく言葉にできればと思います。だいたい演劇というのは、いない人のことについて喋る芸術です。舞台を日本的な風景に吹っ切ったところはチャレンジですが、理想を言えば、最初ちょっと戸惑うけれども、終わったらひとつの世界だった……ひとつの宇宙のなかにいるような感覚で、お客様に席を立っていただければと思っています」取材・文:青澤隆明

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