eぶらあぼ 2023.9月号
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第107回 「評論家よ、まずはお前が動かんか!」 ダンスに限らず、評論家には2種類いる。「動く評論家」と「動かない評論家」だ。「動く評論家」は足しげく劇場に通い、若いアーティストの作品も観て、海外のフェスにも出かけていく。世界には恐るべき才能が溢れていることを知っており、多様性とアーティストの創造性に畏敬の念を持っているからだ。いっぽう「動かない評論家」は自分のことをこう思っている。「私は卓越した洞察力と気の利いた文章を書くことができるので、作品はたまに観るだけで充分である」。そしてしまいには「私が観たいと思う作品が少なすぎる。嘆かわしい」と言い出す。いやまず、お前が動けや! 座して視界に入るものが世界のすべてだと思い込んでいる「感性の老人」は端的にいって不遜なのであり、実年齢は関係ない。 本連載の第103回で紹介した、オレが本気でプロの舞踊評論家を養成するプロジェクト(最終的にはヨーロッパのフェスに派遣する)「ProLab 第1回 舞踊評論家【養成→派遣】プログラム」は、もちろん「動く評論家」を想定している。めでたく最終選考が終わり、5名の受講者が決定した。年齢・職業とも多彩な才能があつまり、8月21日から始まるDance Base Yokohama(共同主催)での講義が楽しみである。しかし合格にならなかった中にも面白い才能はいくつもあった。 彼らにはぜひ書き続けてほしいと切望するが、どうも多くの人が「書く場と、読んで評価してくれる人がいないと書く気がしない」と思っているらしいのである。プロの書き手ならば「SNSでガンガン書け。話はそれからだ」と思うところだが、一般の人なら、わからんでもない。いまのSNSは殺伐としてるもんな。 しかしダンスについて書きたい人が増えることはダンス界を豊かにする基底を成している。音楽やそれでも踊るそれでも踊る者たちのために者たちのためにダンスなど、非言語の芸術こそ言葉によって血肉化し、共有し、歴史に残していくことが大切なのだから。なので「プロではないがレビューは上達したい」くらいの人のために「オンラインのダンス私塾」みたいなものができないか考えている。なにかアイディアがある人は聞かせてくれ。 さて今回の養成プロジェクトは海外でも注目されている。オレが経過をがんがんFacebook等で発信しているからだが、いまは瞬時に各国の言葉に翻訳されるので、伝わるスピードが速い。これも未来の舞踊評論が生き残るために利用していくべき文明の利器である。 香港のフェスティバル・ディレクターから(次回書くが、今オレは韓国大邱のフェスに来ている)こんなオファーを受けた。 「私のフェスは従来、ディレクターしか招待しなかった。しかしノリコシのプロジェクトを見て、今年私は『これからは評論家も招待するべきだ』と会議で提案した。ぜひ来年のフェスに来てくれ。そしてアジアのダンス評論についてシンポジウムをやりたいので、そこで発表してほしい」 大げさに言えば他国のフェスの改革のきっかけになったのである。まだ始まってないのに。これからの評論の改革には、劇場やフェスティバルの協力が不可欠なので、こうした連携も大切にしていきたい。Profileのりこしたかお/作家・ヤサぐれ舞踊評論家。『コンテンポラリー・ダンス徹底ガイドHYPER』『ダンス・バイブル』など日本で最も多くコンテンポラリー・ダンスの本を出版している。うまい酒と良いダンスのため世界を巡る。http://www.nori54.com130乗越たかお

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