eぶらあぼ 2023.8月号
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50Interview黒川 侑(ヴァイオリン)& 久末 航(ピアノ)気鋭の二人が細部までこだわり抜いた意欲作 ヴァイオリンの黒川侑とピアノの久末この録音は、ブラームスが人生の後期に書いた3つの航によるCD『ブラームス:ヴァイオリン・「傑作」の隅々にまで光をソナタ全集』がリリースされる。一度で当てる。も彼らの演奏を聴いたことがある方に 「3曲とも個性がそれぞれはかなりワクワクするニュースではないだろうか。日本音楽コンクール第1位、違っている上に、後期のブ仙台国際音楽コンクール聴衆賞などをラームスらしく複雑な音獲得し、日本各地で演奏を行う黒川に型や和声がところどころにとってはデビュー・アルバムとなる。待っていて、どうやって音 「ブラームスの作品がそもそも好き楽を作り上げていくか、迷で、ヴァイオリン・ソナタも若い頃は演うところが多い作品です。奏会で取り上げていましたが、最近は特に難しいと感じたのは第1番で、ヴァイオリンとピアちょっとご無沙汰していました。しかノの対話や音の繋がりを意識して演奏し、録音のお話をいただいて、やるからし、ピアノにずいぶん助けられながらには中途半端なものではなく、しっかり録音を終えることができたと感じていと手応えのあるものを残したいということで、3曲のソナタにあらためて取ります」(黒川) 「第2番の第1楽章にはアマービレと組んでみました」と黒川。いう表情記号が付いていますが、それ 作曲家自身が優れたピアニストでもを自然に表現するのも難しいことでしあったので、そのピアノ・パートもなかた。どの曲も、ホールでの録音の後に、なかに難しいとされる。スタジオでの編集段階でヴァイオリン 「確かにピアノも難しいのですが、とピアノのバランスを調整し、聴き落と今回の共演では黒川さんのヴァイオリしてしまいそうなピアノの内声部の音ンの音色が濃厚かつコクがあって、それに惹き付けられるように僕も音楽を作っていくことができました」と語る久末は、現在ベルリン在住で、ミュンヘン国際音楽コンクールのピアノ部門第3位獲得など、海外での受賞歴も多い。 そのふたりが強力なタッグを組んだ第一人者・子安ゆかりのピアノとともに得意のバラードに拠る演奏会を岡山と東京で開く。レーヴェ〈小人たち〉では職人仕事を手伝う妖精たちの働きぶりが軽妙に歌われるだろうし、ヴォルフ〈コウノトリの知らせ〉でも滑らかな節回しが楽しめそう。子安曰く、「斬り込み隊長のように情熱的」でもある木村の芸術性をお楽しみに。8/5(土)14:00 トッパンホール問 ヤタベ・ミュージック・アソシエイツ03-3787-5106 https://y-m-a.com他公演7/26(水) 岡山/ルネスホール(ギフトミュージックカンパニー:木村080-1933-4844)左:黒川 侑 右:久末 航 ©アールアンフィニもクリアに再現することで、ブラームスの魅力を捉えることができたように思います」(久末) ローム ミュージック ファンデーションの奨学生として知り合ったふたり。出身は京都と滋賀というお隣同士。その息の合いかたも興味深かった。CDはもちろんのこと、DSD11.2MHzハイレゾ・レコーディングによる配信も行われるので、ぜひ高音質でふたりの共演を聴いてほしい。文:岸 純信(オペラ研究家)取材・文:片桐卓也©Olliver von SalzenCD『ブラームス:ヴァイオリン・ソナタ全集』アールアンフィニMECO-1077 ¥3300(税込)7/19(水)発売木村善明バスバリトン・リサイタル 歌物語への誘い Ⅱ〜H.ヴォルフ & C.レーヴェのバラード作品〜若き名手が織りなす知られざるバラードの魅力 独ビーレフェルト歌劇場の専属として活躍中のバスバリトン木村善明は、岡山県が生んだオペラ界期待の星。濃色の美声をもとに得意のドイツ語で切れ味鋭く歌いあげ、生の台詞の多い役―例えば、モーツァルト《後宮からの逃走》の番人オスミン―でも大成功している。そんな木村はリートの分野でも日本が誇る歌い手の一人。東京藝大大学院修了時にはレーヴェのバラードの研究で博士号も得た。昨年の帰国の折も、五線譜下のホ音という超低音をさらっと歌い上げ、高音域も清らかにこなすさまに圧倒された。 その木村がこの夏再び、歌曲伴奏の

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