112イザイの無伴奏ソナタを、作曲者の孫弟子にあたる世界屈指のヴァイオリニスト、ヒラリー・ハーンが全曲録音した待望のアルバム。「(今年の)作曲100周年にイザイの想いを活かす」とのコンセプトで制作された渾身の1枚だ。ハーンは、持ち前の正確なテクニックですべての音を丁寧に紡ぎながら、緩急・強弱自在の鮮やかな演奏を展開。各曲の特質をナチュラルかつ雄弁に表出している。中でも、第2番のバッハと「怒りの日」の引用の巧妙な処理、第3番の豊かな表情と迫真的な畳み込みは感嘆の一語。終始濃密でハイテンションが維持された第6番も滅多にない聴きものだ。(柴田克彦)バッハのオルガン曲全曲録音もある日本を代表するオルガニスト椎名雄一郎のライブ。習志野文化ホールのベッケラート・オルガンは、45年の歴史を誇る。前半はバッハの有名曲から。「トッカータとフーガ」は、重厚な不協和音が存分に味わえ、フーガの後の高揚が圧巻。バッハ最大のオルガン曲「前奏曲とフーガ」BWV552は、三位一体の3つの主題で神を讃える壮大な作品で、椎名の演奏の懐の深さを実感できる。メンデルスゾーンのオルガン・ソナタでは、荘厳な響きの中から敬虔な歌や流麗なスケルツォが聴こえて楽しい。ブラームスのコラール前奏曲は、彼の遺言ともいえ、実に味わい深い。(横原千史)2022年6月のヴァン・クライバーン国際ピアノコンクールのライブ録音。史上最年少の18歳で優勝したイム・ユンチャンが演奏したリストの「超絶技巧練習曲」全曲を収める。コンクールも佳境を迎えたセミファイナルの演奏で、その熱っぽさもまといながらも、どんな素早いパッセージにも丁寧な濃淡を付け、悪魔的かつ抒情的な変化に富んだ構成は見事。「マゼッパ」や「英雄」など、どの曲も圧巻だ。音数が極めて多いリストの譜面から、これほどまでに多くの情報量を読み取り、感じ取り、表現する余地がまだあったのかと、驚愕させられる。新たな逸材、現る。 (飯田有抄)藤倉大は演奏者との緻密な協業を通じて曲を作り、アルバム制作ではミキシングまでも手掛ける。そうした姿勢は本盤にも明瞭な個性を与えている。琵琶からフォルテピアノまで、古今東西の楽器によるソロ作品は、どれも豊かなアイディアで奏者・楽器の可能性を巧みに引き出している。また自然な臨場感からヴァーチャルな印象を与えるものまで、トラックごとに様々な音像が出現するのも興味深い。表題作・ヴィオラ協奏曲「ウェイファインダー」はノスタルジックな香りを漂わせる独奏を、それを包むアンサンブルと滲み溶け合わせることで、大自然をさまよう孤独な旅人の姿を浮かび上がらせた。(江藤光紀)CDイザイ:6つの無伴奏ヴァイオリン・ソナタ イザイ:6つの無伴奏ヴァイオリン・ソナタヒラリー・ハーン(ヴァイオリン)CDCDSACDJ.S.バッハ:トッカータとフーガ BWV565、主よ 人の望みの喜びよ、小フーガ、前奏曲とフーガ BWV552/メンデルスゾーン:オルガン・ソナタ第4番/ブラームス:「11のコラール前奏曲」より 他椎名雄一郎(オルガン)リスト:超絶技巧練習曲イム・ユンチャン(ピアノ)藤倉大:ウェイファインダー―ヴィオラ協奏曲(アンサンブル・ヴァージョン)、チャーピング・バード〜ソロ・パーカッションのための、ゆらぎ〜尺八のための、ハーフ・ムーン〜琵琶のための 他アン・レイレフア・ランツィロッティ(ヴィオラ) 佐藤紀雄(指揮) アンサンブル・ノマド 他収録:2022年7月、東京芸術劇場(ライブ) 他ソニーミュージックSICX-10019 ¥3300(税込)ユニバーサル ミュージックUCCG-45073 ¥3080(税込)収録:2023年2月、習志野文化ホール(ライブ)コジマ録音ALCD-1218 ¥3300(税込)収録:2022年6月、フォートワース(ライブ)STEINWAY&SONS/ナクソス・ジャパンNYCX-10407 ¥2970(税込)作品27/ヒラリー・ハーン椎名雄一郎 オルガン・リサイタル―習志野文化ホール 2023イム・ユンチャン ライヴ・フロム・クライバーンリスト:超絶技巧練習曲集藤倉大:ウェイファインダー/アンサンブル・ノマド 他
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