Interview26NISSAY OPERA 2022《セビリアの理髪師》(全2幕、原語[イタリア語]上演・日本語字幕付)6/11(土)、6/12(日)各日14:00 日生劇場■ 日生劇場03-3503-3111 https://www.nissaytheatre.or.jphttps://opera.nissaytheatre.or.jp/info/2022_info/siviglia/※黒田祐貴は6/12(日)に出演。 配役など公演の詳細は上記ウェブサイトでご確認ください。 かなりのハイバリトンで明るく丸い――。黒田祐貴は自分の声をそう評するが、1時間余りのインタビューの間、話し声がこんなに心地よかった例は少ない。天性の美声は歌手にとって大きなアドバンテージである。 「オーディションがあったのは大学院を出て間もないタイミングで、《セビリアの理髪師》のフィガロなら受けたいなと。いまの自分の声に合っていて、取り組み甲斐があるからです。演出が粟國淳さんということにも引き寄せられました。東京藝術大学の学部生時代、粟國さん演出の大学院オペラに合唱で参加し、オペラが書かれた当時の様式を重んじる姿勢に共感を覚えていたのです」 無事、NISSAY OPERA《セビリアの理髪師》に起用されながら、折からのコロナ禍。上演は2年延期されたが、その間、悪いことばかりではなかった。 「オーディションに通って名前を出していただいたおかげで、佐渡裕さん指揮の《メリー・ウィドウ》でダニロを歌ったり、日本コロムビアからCDを出せたりと、表現者として糧になることがありました」 ひと回り大きなフィガロにつながるに違いない。実際、その声も184センチの身長もいかにもフィガロ。ただ、黒田というと深く端正なドイツ・リートのイメージも強いが、これまで短期間ながら海外で学んだ先は、いずれもイタリアだ。 「フィガロはかっこよくて陽気。演じ甲斐があって楽しみです。声の魅力を最大限に引き出せる作品ですし、アンサンブルが大好きなので、1幕フィナーレなど人がどんどん増え、急速な応答とアンサンブルがあって魅力的。僕がやっていたトロンボーンも、人と一緒に和音を創る楽器という点で一緒ですから」 中高時代は吹奏楽でトロンボーンを吹き、藝大も現役時はトロンボーンで受験したという。 「父(バリトンの黒田博)が歌手なのに、家のなかでオペラや歌曲に触れることはなく、家で聴いてきたのはマーラーなどのシンフォニー中心。ポップスも含めて歌に興味をもったことがなかったのです。しかし、藝大を再受験するにあたってトロンボーン以上に合っているものがあるかもしれない、という先生の助言を機に父に歌を聴いてもらい、先生を紹介されて勉強し、藝大に拾われました。だから入学当初は『三大テノールってだれ?』というレベルでした」 しかし、「僕にとって、変なクセがなにもない状態で歌を始められたのは、よかったのかもしれない」と黒田。実際、その歌には日本人にありがちなクセがない。声が自然に息に乗せられ、光沢を放ちながら美しく音を運ぶ。 そんな黒田は、自身の性格をどうとらえているのだろうか。「マジメなのか」という問いに返ってきた答えは、「根はどちらかというと、ふざけ体質なんですが、体面的にマジメに取り組んでいるという感じですかね」。 伯爵に従順なようで根っこに洒落っ気があるフィガロそのものではないか。自然で伸びやかな声に根っからのウィットが加わって、ハイレベルなフィガロがいまから聴こえてくるようだ。Yuki Kuroda/バリトンロッシーニのフィガロは「自分の声に合う役」で「楽しく演じられる陽気なキャラクター」取材・文:香原斗志黒田祐貴
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