eぶらあぼ 2022年5月号
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第91回 「副反応とともにリトアニア渡航などを考える」 この原稿は3度目のワクチンを接種してきた直後に書いている。書き終わるのが先か、副反応でぶっ倒れるのが先か、一人チキンレースでお送りしているところだ。 さてコロナ禍の中だからこそ立ち上がった企画がいくつか形になっている。 以前も書いたが国際交流基金の「ステージ・ビヨンド・ボーダーズ」は日本の舞台芸術を海外に配信するもの。音楽などの権利関係を基金がクリアし、最大8ヵ国語の字幕を付けるという本気のプロジェクトだ。オレはダンス部門の選考委員を務め、さらに今期19作品すべての解説を書いた。 国際交流基金アジアセンターは、様々な分野のアーティストのオンライン交流対談「アジアセンター クロストーク」を行った。海外に出かけられない今こその、ネットでつないだ対談である。オレはコンテンポラリー・ダンス編で森山開次(日本)×マリオン・ドゥ・クルーズ(マレーシア)のモデレーターを務めた。マリオンは、マレーシアの舞台芸術を牽引してきたファイブ・アーツ・センターの創設者のひとり。多民族国家のマレーシアが現在の国家として独立したのは1963年なので、オレと同い年である。マリオンは国のアイデンティティを問うような作品も作っており、TOKYO2020 パラリンピック開会式の演出・チーフ振付を務めた森山との話は盛り上がった。もっとも収録時は、マリオンは事務所の引っ越しの真っ最中であり、おまけにマレーシアが記録的な豪雨で洪水に襲われるなかでの収録だったけれども。 ……だんだんワクチンを打った腕が痛くなってきたが、頑張って書くよ。 ワクチンを打った理由の一つは海外渡航の話がいくつが来ているからだ。4月末からはリトアニアに1221週間ほど行く予定である。日本との友好100周年を祝うジャパン・ウィークの中で、日本のダンスについて講座を依頼されているのだ。 世界的にコロナの感染対応による出入国の規制は緩和されているが、3回(9ヵ月以内)のワクチン接種が条件で、逆に言うとこれがないと話にならない感じである。なかには、「海外に招聘されたものの、アレルギーのためワクチンを打つことができず、泣く泣く断念したダンサー」もいる。 しかもコロナ関連のみならず、折からのウクライナ危機まで起こってしまった。リトアニアは、ウクライナの隣国でロシアと軍事行動を共にしているベラルーシの、さらに隣の国なのである。混迷を極めるウクライナ情勢は、和平間近とも泥沼化とも言われ先が読めない。もっともリトアニアはEUにもNATOにも加盟しているので、ロシアもそこまで戦線を拡大することはないだろう(そうなったら自動的に第三次世界大戦に突入してしまう)。まあオレは自爆テロが頻発していたイスラエルでもダンスフェスティバルには通っていたので、どのみち行くけれどもね。 大変な政治状況のなかでも、アートを貫こうという人々は必ずいる。オレはそういう地域のフェスティバルには積極的に足を運びたい。そういう場所だからこその輝きがあることも多いからだ。ダンスというアートの場合は特に。Profileのりこしたかお/作家・ヤサぐれ舞踊評論家。『コンテンポラリー・ダンス徹底ガイドHYPER』『ダンス・バイブル』など日本で最も多くコンテンポラリー・ダンスの本を出版している。うまい酒と良いダンスのため世界を巡る。http://www.nori54.com乗越たかお

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