eぶらあぼ 2022年5月号
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116子ども用玩具として製造されるトイピアノの「楽器」としての性能に近年注目が集まっているが、川口成彦のような時代楽器を巧みに操る(つまり多様な構造の楽器への適応力に富む)鍵盤楽器奏者の手にかかると、かくも魅力が引き出されるものかと驚く。ミシェルソンヌ(フランスのヴィンテージ)とジェイマール(アメリカのヴィンテージ)の30鍵以下のトイピアノを3台用い、その滑舌の良さと残響の豊かさとを活かす。選曲も粋で洒脱だ。ヘンデルとハイドンの音楽時計のための作品、トイピアノのために書かれたおそらく史上初の作品とされるケージの組曲、コルの「快活なエアー」を収録。(飯田有抄)大塚野乃子は、東邦音大からウィーンのプライナー音楽院に学んだ実力派ヴァイオリニスト。そのデビュー盤は、ベートーヴェンのソナタ第5番「春」を軸に、クライスラーの小品や、その同い年のラヴェルの難曲「ツィガーヌ」などを配した、多層的な選曲に。特に「愛の喜び」「愛の悲しみ」など、ウィーンでの生活を経験した者でなければ体現し得ないような、独特の間合いと空気感を纏う。一方で、誰か巨匠のスタイルを真似るのではなく、独創的な世界観を確立。録音場所の残響すらも味方につけ、一音一音に気持ちを込めてゆく。ピアノの米根弥恵も、真剣さの伝わる好サポートぶりだ。(寺西 肇)当代一流のバロック歌手ヴェロニク・ジャンスとサンドリーヌ・ピオーが18世紀後半のフランス・オペラで競演する。当時パリで人気を競っていたライバル歌手になぞらえて、そのレパートリーを披露。ショーヴァンの指揮する古楽オーケストラがキレキレのリズムで伴奏する。それは最初の2曲を聴いただけでわかる。珍しいモンシニーとエデルマンのアリアでは、海の嵐の描写があり、ライバルたちの心の嵐と重なる。そのオーケストラ(特にティンパニ)もド迫力。グルックやグレトリのそれぞれのアリアも優れて魅力的だが、J.C.バッハやケルビーニの二重唱もとても美しい。(横原千史)ピアノ・ソロによるエマーソン・レイク&パーマー(ELP)の『タルカス』! 榎本玲奈の編曲・演奏は実に秀逸で、ピアノだからこそ可視化されるキース・エマーソンの「生の」発想、ジャズ、ブルースやクラシックの語法の躍動。故に、それらのジャンルのリスナーも面白く聴けると同時に、ELPのオリジナルに馴染んだプログレ・ファンも新鮮な驚きをもって接することができよう。だから「タルカス」と並ぶメインに「ラプソディ・イン・ブルー」が並べられてもまったく違和感はない。オケ版「タルカス」で知られる吉松隆の小品と、ELPの同アルバム日本盤にボーナストラックとして収録されたグルダ作品も併録とは気が利き過ぎ。(藤原 聡)ヘンデル:チャールズ・クレイ氏の音楽時計のための7つの小品/ケージ:トイピアノのための組曲/ハイドン:音楽時計/マルティン・イ・コル:快活なエアー川口成彦(トイピアノ)MUSIS/ナクソス・ジャパンMUSIS03 ¥2200(税込)クライスラー:美しきロスマリン、愛の悲しみ、愛の喜び/サラサーテ:ツィゴイネルワイゼン/エルガー:愛の挨拶/ラヴェル:ツィガーヌ/ベートーヴェン:ピアノとヴァイオリンのためのソナタ第5番「春」大塚野乃子(ヴァイオリン)米根弥恵(ピアノ)モンシニー:《美しきアルセーヌ》より〈ここはどこ?〉/エデルマン:《ナクソス島のアリアーヌ》より〈でも テゼはいない〉」/J.C.バッハ:《シピオーネの慈悲》より〈なんて不幸なの!何ですって?〉/グルック:《皇帝ティートの慈悲》より〈あなたの顔を 優しい風が〉 他ヴェロニク・ジャンス サンドリーヌ・ピオー(以上ソプラノ) ル・コンセール・ド・ラ・ロージュ(管弦楽) ジュリアン・ショーヴァン(指揮)ALPHA CLASSICS/ナクソス・ジャパンNYCX-10296 ¥3300(税込)エマーソン・レイク&パーマー(榎本玲奈編):タルカス、限りなき宇宙の果てに、アー・ユー・レディ・エディ?/吉松隆:NHK大河ドラマ「平清盛」より〈遊びをせんとや〉/ガーシュウィン:ラプソディ・イン・ブルー/グルダ:プレリュードとフーガ榎本玲奈(ピアノ)ソナーレ・アートオフィスSONARE1055 ¥2640(税込)フォンテックFOCD20127 ¥2970(税込)CDCDCDCDトイピアノ選曲集 DREAMING〜夢みる/川口成彦ウィーンの光と影/大塚野乃子&米根弥恵ライヴァルたち〜フランス・オペラ、オペラ・コミークからのエールと二重唱/ヴェロニク・ジャンス&サンドリーヌ・ピオータルカス&ラプソディ・イン・ブルー/榎本玲奈

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