eぶらあぼ 2022年5月号
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114ピアニストの鐵百合奈は第86回日本音楽コンクール第2位に加え、柴田南雄音楽評論賞(本賞)を2年連続で受賞しており、演奏・研究の2つの分野で大きな注目を集めている存在だ。特にベートーヴェンへの取り組みは高く認められ博士号を取得しており、徹底的なこだわりが窺える。そんな彼女がベートーヴェンのピアノ・ソナタ全曲に挑んだ。テーマ別にまとめられたソナタの演奏を大ボリュームの解説書を読みながら聴けば、あらゆる要素が凝縮したベートーヴェンの音楽の謎が解き明かされる感覚を得られるだろう。だが、まずは何も読まずに音と向き合ってほしい。とにかく説得力のある音を奏でる人である。(長井進之介)多くのソリストに楽曲提供してきた作曲家でピアニストとしても評価の高い加藤昌則。そして日本を代表するバリトン歌手で作詞の才能にも恵まれた宮本益光…東京藝大の同期で「桜声舎(おうせいしゃ)」の志を共有する2人の作品集。世界一周の船上で生まれた曲から、ヨックモック「シガール」へのオマージュである〈詩がある〉、カウンターテナー藤木大地による委嘱作品、オペラ《白虎》の公演成功を記念して書いた〈またね、またね〉など、この類い稀な黄金コンビの歩みが詰まった一枚。加えて高村光太郎の有名な「レモン哀歌」や宮本の師であるたかはしけいすけの詩による作品なども必聴。(東端哲也)演奏者の身体には音を操る技術が詰まっており、その技術が楽譜を音に変えていく。だが、楽譜を外し演奏者たちが互いの動きを読みながら演奏に及んだら何が起こるか? その、ほとんどルールのない格闘技のような記録が『Spitha』だ。大竹徹のヴィオラに触発され、奈良ゆみが持てる技を次々と繰り出す。声は唸り、叫び、倍音を響かせ、ぽつりと単語を投げ込む。パーカッションの田中康之が静かなパルスで暗い情熱を鼓吹する。それらは融合し聴き手の感情や記憶を刺激して、場にもののけが憑いたようになる。演奏後の「田中さんとは今日初めてお会いしたんです、ここで」という奈良のコメントには驚いた。(江藤光紀)プロコフィエフの9曲のソナタをピアノメーカー6社の楽器で演奏するコンサートシリーズ第3回目のライブ録音(2021年3月10日ヤマハホール)である。この回の使用楽器はヤマハCFX。曲目はプロコフィエフが亡命したパリに焦点をあてており、亡命中に書かれたソナタ第5番、第二次大戦中に書かれた第7番を中心に据え、パリに関連してショパン、リャードフ、スクリャービン、ラヴェルの作品も取り入れており、意欲的で盛りだくさんの内容だ。ヤマハCFXの芳醇な響きを活かし、上野優子のリリカルでドラマティックな演奏表現を堪能できる2枚組。   (飯田有抄)収録:2014年12月、座・九条(ライブ) 他コジマ録音ALCD-5004 ¥2750(税込)ベートーヴェン:ピアノ・ソナタ第23番「熱情」、同第12番「葬送」、同第1番、同第22番、同第28番、同第15番「田園」、同第2番、同第27番、同第21番「ワルトシュタイン」、同第11番、同第3番、同第6番、同第26番「告別」、同第8番「悲愴」、同第5番、同第4番鐵百合奈(ピアノ)収録:2019年2月、美竹清花さろん(ライブ) 他N&F NF29503/7(5枚組) ¥オープンプライス加藤昌則:魔女の住む街、祈りの街、落葉、詩がある、そこにある歌、彦星哀歌、レモン哀歌、さくら、「ME」より〈恋歌〉、「花と鳥のエスキス」より〈ぼくの空〉〈あたらしい日がくるたびに〉、「名もなき祈り」より〈今、歌をうたうのは〉、もしも歌がなかったら、平和へのソネット、またね またね 他宮本益光(バリトン)加藤昌則(ピアノ)﨑谷直人(ヴァイオリン)オクタヴィア・レコードOVCL-00770 ¥3520(税込)奈良ゆみ/大竹徹/田中康之:I〜III奈良ゆみ(ヴォイス/りん/貝殻 他)大竹徹(ヴィオラ)田中康之(パーカッション)ショパン:舟歌/リャードフ:3つの小品 op.11/スクリャービン:ピアノ・ソナタ第2番「幻想」、詩曲「焔に向かって」/プロコフィエフ:ピアノ・ソナタ第5番、同第7番「戦争ソナタ」、思考/ラヴェル:「鏡」より 第2曲〈悲しい鳥たち〉、亡き王女のためのパヴァーヌ上野優子(ピアノ)収録:2021年3月、ヤマハホール(ライブ)フォンテックFOCD20129/30(2枚組) ¥3850(税込)CDSACDCDCDベートーヴェン:ピアノ・ソナタ全集 上巻/鐵百合奈シンガーソングライター―加藤昌則歌曲集―/宮本益光&加藤昌則上野優子リサイタル with YAMAHASp■■■itha 火花―空にたわむれる/奈良ゆみ&大竹徹&田中康之

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