eぶらあぼ 2022年5月号
115/141

112音楽をシステマティックに思考し発展させてきた松平親子のピアノ作品集。父・頼則のセクションが日本の旋法と音列技法のハイブリッド化(「ピアノのための16の小曲」)でスタートするのに対し、子・頼曉作品は調性音楽の異化(「井上郷子のための名簿」)なのが対照的だ。また、ガラス細工のように繊細な頼則作品に対し、頼曉作品はよりダイナミックな音響世界を志向している。とはいえ、揃って90歳を超え現役で作曲した/している2人の軌跡と創作には、切っても切れない父子の縁も感じられる。最後の曲は、50歳で亡くなった頼曉の娘に向けられており、コラール風に清廉に閉じる。(江藤光紀)クァルテット・エクセルシオのチェリスト大友肇による、バッハ無伴奏組曲全曲録音の最後となる一枚。とにかく美しい。どこまでものびやか、自然体で、温もりがあり、技巧の面も申し分ない。ニ短調の第2番は、重く暗い曲調から瑞々しい情感と躍動感をも引き出し、曲のイメージを洗い直す。ニ長調の第6番は、高音の連続も巧みに弾きこなす安定感、その上で“神に捧げる調”にふさわしい輝きや深い祈りまで表現した完熟の名演。ほれぼれと聴き入るばかり。野本哲雄の思慮深いピアノの響きに包まれ、穏やかな旋律が続いていくディーリアスとドヴォルザークの情趣もいい。 (林 昌英)名手・中野振一郎がスタートさせた、フランス・バロックの大家フランソワ・クープランのクラヴサン(チェンバロ)作品全集録音。1年を隔てての第2弾では、『クラヴサン曲集』全4巻から5つのオルドル(組曲)と、『クラヴサン奏法』から3つの前奏曲を収録した。かつては心のまま、愉悦に任せて弾くかのようだった中野。しかし、時を重ねて、彼のスタイルは進化。愛器ブランシェ(1730年モデル)に寄り添い、その美点を余さず引き出す。一方で、聴き手には自由に弾いているかに思わせて、実は緻密な計算に基づき、絶妙なバランス感覚と色彩のパレットを駆使。各曲の全体像を丁寧に形作ってゆく。(笹田和人)様々なコンクールで実績をあげ、現在は東京藝大大学院に在籍する俊英のCD第2弾にして、今年生誕150年を迎えたスクリャービンのピアノ・ソナタ全集の第1弾。「彼の音楽の世界に魅せられ、虜になっています」という自身の弁を実証するかのような、シンパシーに充ちた快演が展開されている。テクニックは申し分ないし、透明感のある音色が何より魅力的。クリアな表現の中にも詩情が漂い、神秘的かつダイナミックな変化に耳を奪われる。なかでもソナタ第4番は聴きもの。第5番終盤の凄絶なエネルギーにも圧倒される。“音風景の変幻”が見事な、一聴の価値ある一枚。(柴田克彦)J.S.バッハ:無伴奏チェロ組曲第2番、同第6番/ディーリアス:ロマンス/ドヴォルザーク:森の静けさ大友肇(チェロ)野本哲雄(ピアノ)ナミ・レコードWWCC-7963 ¥2750(税込)録音研究室(レック・ラボ)NIKU-9043,44(2枚組) ¥3300(税込)オクタヴィア・レコードOVCT-00196 ¥3520(税込)松平頼則:ピアノのための16の小曲―日本民謡のスタイルによる子供のためのやさしいピアノ曲、「呂旋法によるピアノのための3つの即興曲」より〈Ré 壱越〉、「律旋法によるピアノのための3つの即興曲」より〈la 黄鐘〉、短歌による二つの前奏曲/松平頼曉:井上郷子のための名簿、ピアノのための史跡、ピアノのための3章井上郷子(ピアノ)コジマ録音ALCD-133 ¥3080(税込)クープラン:クラヴサン奏法 前奏曲第1番、同第6番、同第2番、クラヴサン曲集第1巻 第3オルドル、同第2巻 第8オルドル、同第3巻 第13オルドル・第19オルドル、同第4巻 第22オルドル中野振一郎(チェンバロ)スクリャービン:2つの詩曲、ワルツ 変イ長調、ピアノ・ソナタ第4番、同第5番、同第6番、同第7番「白ミサ」、同第9番「黒ミサ」尾城杏奈(ピアノ)CDCDCDSACD松平頼則・松平頼曉 ピアノ作品集/井上郷子バッハ&ディーリアス、ドヴォルザーク/大友肇クープラン:クラヴサン曲全集 2/中野振一郎スクリャービン・リサイタル I ピアノ・ソナタ全集 Vol.1/尾城杏奈

元のページ  ../index.html#115

このブックを見る