110“世界のUCHIDA”、6年ぶりのアルバム。内田光子は「ディアベッリ変奏曲」を、2013年からリサイタルのメインに据え、日本でも驚嘆の名演を聴かせているだけに、待望のディスクの登場だ。ベートーヴェンの変奏技法の集大成たるこの晩年の記念碑的大作は、若手や並の奏者では歯が立たない。その点、彼女はさすがだ。すべての音やフレーズが明確にして細やかで、多様な変奏の一つひとつが生気を放ち、しかも滋味深い。まさに自在の境地! 音楽家としての円熟と、楽曲の生演奏の積み重ねの末に到達し得た至芸というほかない。曲に馴染みがない方にもお薦めの名盤。(柴田克彦)カウンターテナー青木洋也とソプラノ藤崎美苗による珍しい二重唱曲集。ロマン派のメンデルスゾーンとシューマンの間にバロックのパーセルの曲が入る興味深い構成だ。とりわけパーセルは原曲ではなく、ブリテンのリアライゼーションがなかなか秀逸で、20世紀のテイストも味わえる。そのうち「だめ、抵抗しても無駄」は、反行カノンがリフレインで何度も出てきて面白い。その意味は恋の歌のようでも、他のことのようでもある。メンデルスゾーンの二重唱では、ハリのあるソプラノと透明なカウンターテナーが交互になったり、一緒になったりして美しい響きを生み出す。シューマンはひとひねりが楽しい。(横原千史)アンスネスがマーラー・チェンバー・オーケストラと取り組む「モーツァルト・モメンタム」、昨年リリースされた『1785』に続く第2弾。1786年、モーツァルトの創作にモメンタム(勢い)がほとばしっていた頃の傑作を集めた。協奏曲ではつややかな音のオーケストラにまず魅了され、そこにシンプルな美を持つピアノが加わる。第23番第2楽章の独白のような表現、第24番第3楽章の軽やかさと重厚さのコントラストなど、聴きどころが多い。ピアノトリオの自然な掛け合いは水の中を泳ぐ3頭のイルカのよう。モーツァルトの美点を際立たせた、心地よく飽きのこないアルバム。(高坂はる香)オーストリアのトーンキュンストラー管とドイツの名匠、準・メルクルによる新譜は、意外にもムソルグスキー・アルバム。輝かしい色彩でパワフルな演奏の多いラヴェル版「展覧会の絵」が、木目の見えるような肌合い、人間的な温かみが横溢しており、国籍を超えたフィナーレの大団円には感慨も加わる。近年原典版の演奏が多い「禿山の一夜」はあえてリムスキー=コルサコフ版で臨み、洗練された編曲から作曲者本来の粗野なパワーをも掴み出して、熱気とエネルギーに満ちた豪快な名演が実現。メルクルのこの版への思い、さらには作曲者への愛情が演奏から伝わり、なんとも嬉しくなる。(林 昌英)ベートーヴェン:アントン・ディアベッリのワルツによる33の変奏曲 op.120内田光子(ピアノ)メンデルスゾーン:挨拶、秋の歌、民の歌、別れ/パーセル(ブリテンによるリアライゼーション):わたしの安息はもうどこにもない、朝の讃歌、祝福された乙女の忠告、だめ 抵抗しても無駄、もし音楽が愛の糧ならば(第1稿)、夕べの讃歌/シューマン:わたしのバラ、秋の歌、美しい小さな花々 他青木洋也(カウンターテナー) 藤崎美苗(ソプラノ) 越知晴子(ピアノ)コジマ録音ALCD-7278 ¥3080(税込)モーツァルト:ピアノ協奏曲第23番、同第24番、ピアノ四重奏曲第2番、ピアノのためのロンド K.485、ピアノ三重奏曲第3番 他レイフ・オヴェ・アンスネス(ピアノ/指揮) マーラー・チェンバー・オーケストラクリスティアーネ・カルク(ソプラノ) マシュー・トラスコット(ヴァイオリン) ジョエル・ハンター(ヴィオラ) フランク=ミヒャエル・グートマン(チェロ)ソニーミュージックSICC-30597〜8(2枚組) ¥3960(税込)ムソルグスキー:展覧会の絵(ラヴェル版)、歌劇《ホヴァーンシチナ》への前奏曲、禿山の一夜(以上リムスキー=コルサコフ版)準・メルクル(指揮)トーンキュンストラー管弦楽団ユニバーサル ミュージックUCCD-45016 ¥3080(税込)エイベックス・クラシックスAVCL-84133 ¥2200(税込)CDCDCDCDベートーヴェン:ディアベッリ変奏曲/内田光子あなたが音楽そのものだと―デュエット&ソロ―/青木洋也&藤崎美苗モーツァルト・モメンタム1786/レイフ・オヴェ・アンスネス&マーラー・チェンバー・オーケストラ 他ムソルグスキー:展覧会の絵(ラヴェル版) 他/準・メルクル&トーンキュンストラー管
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