34銀座ぶらっとコンサート #144 宮本益光の王子な午後26 ~ふるさとの歌 ~郷愁を誘うメロディをじっくりと味わう文:東端哲也12/25(金)13:30 16:00 王子ホール問 王子ホールチケットセンター03-3567-9990 https://www.ojihall.jp 王子ホールがその好立地をいかし、平日の昼下がりに買い物など“銀ぶら”途中に友達同士でふらっと立ち寄れるような気軽な公演をめざす「銀座ぶらっとコンサート」。コロナ禍でこの人気企画も今年は中止を余儀なくされる回もあったが、当初3月に予定されていた#144が、定員の50%販売で2部制をとる形でめでたく12月25日に振替開催が決定した。 奇しくもクリスマス公演となったのは、演奏活動に留まらず作詞・訳詞・脚本執筆・演出など多才な活動で知られ、バリトン“王子”の異名をもつ歌手・宮本益光の人気シリーズ第26弾。9月に「なみだの歌」を集めた第27回が先に開催され好評を博したばかりで、ファンにとっては聖夜の素敵な贈り物になりそうな今回のテーマは「ふるさとの歌」。日本人にとっては異国情緒というよりも郷愁を誘う旋律であるアメリカやアイルランドの民謡に始まり、イタリア語・ドイツ語・フランス語による名歌曲が盛りだくさん。オペラ・アリアの中から極めつきの“望郷”ナンバー〈プロヴァンスの海と陸〉(ヴェルディ《椿姫》より)が聴けるのもスター・バリトンならでは。もちろん日本歌曲も披露される。ピアノ演奏を担当するのは東京藝大の同期ですでに多くの共作を生んでいる作曲家・加藤昌則。同シリーズの名物コンビによる楽しいトークも楽しみだが、もともとはTOKYO FM少年合唱団の委嘱による合唱組曲のひとつで、二人が共作した佳曲〈桜の背丈を追い越して〉を再び聴くことができるのも嬉しい。小泉和裕(指揮) 東京都交響楽団年末は名匠の共演とシンフォニックな大曲を文:江藤光紀都響スペシャル2020 12/17(木)19:00 東京文化会館問 都響ガイド0570-056-057 https://www.tmso.or.jp 12月に行われる都響スペシャルは、小泉和裕の指揮でドイツの交響的作品の王道2曲を並べた。 前半はブラームス「ピアノ協奏曲第1番」。ベートーヴェンの偉大な創作を前にブラームスが最初の交響曲を呻吟しながら作曲したエピソードは有名だが、この曲も交響曲としてオーケストレーションしつつも、最終的に協奏曲に変更された。そのため非常にシンフォニックで、独奏楽器の華やかさを生かすというよりも、管弦楽の分厚いサウンドにソロが懐深く飛び込み、強烈に対峙する点に魅力がある。だから独奏者を選ぶのだが、ヴィルヘルム・ケンプを師と仰ぎ、いまや保守本流の中核を担うゲルハルト・オピッツ以上にふさわしい人もいまい。日本人の妻を持ち、親日家でもあるオピッツは、これまでにもドイツ・ピアノ音楽の深さと広がりを私たちに体系的に披露してくれた。すでに気心の知れた小泉・都響とのコンビで、心境の深まりを示してくれることだろう。 後半は「運命」。「苦悩を突き抜けて歓喜へ」というこの曲のプログラムは、後続の交響曲の規範となったが、どんな困難にも不屈であれというメッセージは時代を超えた普遍性を持っている。大変なベートーヴェン・イヤーになってしまったが、コロナ禍において私たちは音楽のみならずその人生が発する意味にも改めて気づかされたのではないだろうか。 一歩一歩地道にキャリアを踏み固め、都響の終身名誉指揮者としてだけでなく、いまや日本全国のオケから出演依頼の引きも切らない求道者・小泉渾身のリードに刮目!ゲルハルト・オピッツ ©HT/PCM小泉和裕 ©堀田力丸加藤昌則宮本益光
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