eぶらあぼ 2019.12月号
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52大村博美(ソプラノ) & アルベルト・ヴェロネージ(ピアノ)“世界の蝶々さん”の声と表現に酔いしれる文:香原斗志12/4(水)19:00 トッパンホール問 トッパンホールチケットセンター03-5840-2222 http://www.toppanhall.com/ 数多いる日本人歌手のなかでヨーロッパで認められた人は、残念ながら少ない。例外の一人が大村博美である。評価の高いプッチーニ《蝶々夫人》はすでに世界各地で100回以上歌っており、昨年と今年はプッチーニの聖地にも呼ばれた。プッチーニが暮らしたイタリアのトッレ・デル・ラーゴにおけるプッチーニ・フェスティバルで、2年続けて蝶々さんを歌ったのだ。しかも、プレミエで。 大村の強みは、ドラマティックな表現に耐えうる強靭な声を、ピーンと張って緊張感を表現しつつ、自在に緩めながら心模様を多彩に描けるところにある。だから、この10月の東京二期会による《蝶々夫人》でも、蝶々さんの一途な愛がリアルに感じられ、悲劇に涙を誘われた。 そんな大村をだれよりも高く評価するのが、指揮者・ピアニストで、前述のプッチーニ・フェスティバルの理事長でもあるアルベルト・ヴェロネージだ。大村と共演するやいなや自身が運営する音楽祭に呼んだのは、鍛え上げられた声と表現力が本物だと評価したからにほかならない。 リサイタルのピアニストとしても卓抜なヴェロネージは、大村の性格表現をさらに深く引き出したい欲求に駆られたようだ。彼の提案で一夜限りのリサイタルが実現し、大村はプッチーニなどのアリアに加え、リストの「ペトラルカの3つのソネット」からデュパルク、アーン、R.シュトラウスまで、珠玉の歌曲を歌う。その自在な歌唱に聴き手は、同じ日本人として誇らしく感じることだろう。アルベルト・ヴェロネージ ©Massimo Sestiniマーク・ウィグルスワース(指揮) 東京交響楽団英国コンビによるセンス抜群のモーツァルトとマーラー文:飯尾洋一第73回 川崎定期演奏会 12/7(土)14:00 ミューザ川崎シンフォニーホール第676回 定期演奏会 12/8(日)14:00 サントリーホール問 TOKYO SYMPHONY チケットセンター044-520-1511 http://tokyosymphony.jp/ 音楽監督ジョナサン・ノットと快進撃を続ける東京交響楽団だが、客演指揮者やソリストにも注目すべき才能が並ぶ。12月の定期演奏会では、ノットと同じイギリス人のコンビが招かれる。 指揮のマーク・ウィグルスワースは今回で5度目の客演。楽員からの信頼も厚いという1964年生まれの実力者だ。2018年に登場した際にはブルックナーの交響曲第4番「ロマンティック」の1888年版/2004年コーストヴェット校訂版を用いた変化球で話題を呼んだが、今回はマーラーの交響曲第1番「巨人」で直球勝負を挑む。東響のマーラーといえば近年はノットの指揮で聴く機会が多かったが、ウィグルスワースはまた一味違ったテイストのマーラーを披露してくれることだろう。 モーツァルトのピアノ協奏曲第24番ハ短調で共演するのは、1996年生まれのマーティン・ジェームズ・バートレット。2014年にBBCヤングミュージシャン・オブ・ザ・イヤーに選ばれ、BBCプロムスに出演するなど、今まさに躍進する若手奏者である。東響には18年に続く再登場。全身を使って音楽と一体となって鍵盤に向かう姿には、思わず見る者を引き込む力がある。この曲は巨匠ハイティンクとも共演している得意のレパートリー。アンドラーシュ・シフからマスタークラスに招待され、録音ではすでにワーナー・クラシックスからデビューを果たすなど、バートレットへの期待は大きい。新星がまばゆい輝きを放つ。マーティン・ジェームズ・バートレット ©Kaupo Kikkas大村博美 ©Marcus Boman マーク・ウィグルスワース ©Ben Ealovega

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