eぶらあぼ 2019.12月号
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45藤岡幸夫(指揮) 東京シティ・フィルハーモニック管弦楽団パワフルかつレアな「第九」公演文:柴田克彦第九特別演奏会 2019 12/28(土)15:00 東京文化会館問 東京シティ・フィル チケットサービス03-5624-4002 https://www.cityphil.jp/ このところ東京シティ・フィルが好演を続けている。2015年常任指揮者に就任した高関健のもとでクオリティも大幅アップ。それに何より“音楽を聴かせる”意欲を感じさせる点が素晴らしい。そうした向上の成果を明確に実感できるのが年末の「第九」公演だ。昨年は高関が堅牢かつ雄弁な名演を展開したが、今年は代わって藤岡幸夫が指揮をとる。 今年4月に同楽団の首席客演指揮者に就任した藤岡は、7月定期のウォルトンや、8月のミューザ川崎における芥川也寸志の交響曲などで、力感あふれる快演を繰り広げている。彼の持ち味は情熱とパワー。それが現在の東京シティ・フィルとうまくマッチし、生気と濃密さを併せ持った演奏が実現していると言えるだろう。それだけに今年は、パッショネイトで濃厚かつ高精度の「第九」が期待される。なおソリストには、安藤赴美子、林美智子、城宏憲、小森輝彦とトップクラスの人気歌手が揃い、同楽団の声楽もので高評を得ている東京シティ・フィル・コーアもその実力を遺憾なく発揮する。 また近年の同楽団の「第九」公演は、日本管打楽器コンクールの覇者がソロを吹く協奏作品が名物演目。今年は18年のトロンボーン部門第1位に輝いた鈴木崇弘(新日本フィル奏者)が、アメリカの作曲家エワイゼンの「バス・トロンボーンのための狂詩曲」を披露する。1997年に書かれたこの曲は、幻想的な趣が漂う全3楽章の作品。ことのほか豊麗なバス・トロンボーン音楽のレア体験も、本公演ならではの楽しみとなる。同曲も含めてこの唯一無二の「第九」公演に、皆こぞって足を運びたい。紀尾井ホール室内管弦楽団アンサンブル・コンサート5マーラー「大地の歌」 ~ウィーン・フィルのメンバーを迎えて小編成版で醸し出す20世紀初頭ウィーンの息吹文:江藤光紀2020.1/17(金)19:00 紀尾井ホール 問 紀尾井ホールチケットセンター03-3237-0061 http://www.kioi-hall.or.jp/ 世界のトップオケの奏者もメンバーに擁する紀尾井ホール室内管弦楽団 は、その人脈を生かしパリ管やバイエルン放送響の奏者たちとの豪華コラボを実現してきた。第5回となるアンサンブル・コンサートは首席指揮者ライナー・ホーネックがコンマスを務めるウィーン・フィルのメンバー3名、すなわちゼバスティアン・ブル(チェロ)、カール=ハインツ・シュッツ(フルート)、ソフィー・デルヴォー(ファゴット)を迎えて、ウィーンゆかりのプログラムを披露する。 ドイツ語訳漢詩に基づく交響的作品「大地の歌」は、作曲者のマーラーが初演を待たずして世を去りオーケストレーションの改訂ができなかったため、歌手と管弦楽のバランスが演奏者にとっての難題となるが、シェーンベルク(途中からライナー・リーン)による室内楽編曲版ではこの点が解消されている。メゾソプラノのミヒャエラ・ゼーリンガー、テノールのアダム・フランスン共に躍進著しい若手だが、その伸びやかな声が透明感のあるオーケストラからくっきりと浮かび上がるだろう。 コンサートの前半には、ニューイヤーにふさわしくJ.シュトラウスⅡのウインナ・ワルツが3曲配され、新春の晴れがましい気分を盛り上げてくれる。こちらもシェーンベルク(「入り江のワルツ」「皇帝円舞曲」)やベルク(「酒、女、歌」)が編曲したもの。実はこうした編曲はシェーンベルクが第一次大戦後にウィーンに設立した「私的演奏協会」のためになされた。主に先鋭的な音楽の紹介を目的とした演奏団体で、より小回りの利く編成で質の高い音楽を提供していたのである。100年前の進取の精神を体現したプログラムを通じ、この音楽の都の歴史の息吹も感じ取りたい。左より:ライナー・ホーネック ©ヒダキトモコ/カール=ハインツ・シュッツ ©T.Tairadate/ミヒャエラ・ゼーリンガー/アダム・フランスン ©Darren Trentacosta左より:藤岡幸夫 ©HIKAWA/安藤赴美子 ©Shingo Azumaya/林 美智子 ©Toru Hiraiwa/城 宏憲/小森輝彦/鈴木崇弘

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