eぶらあぼ 2019.12月号
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32 川久保賜紀、遠藤真理、三浦友理枝がトリオとしての活動を始めて10年。節目となる今年はショスタコーヴィチと坂本龍一を取り上げて記念コンサートを行うほか、10年ぶりに新譜2タイトルもリリースする。 川久保「初めての録音の時は、お互いに違うところ、共通するところがまだわからなかったけれど、10年一緒に演奏していると、それぞれの弾き方までよくわかってきます。とてもいい状態での録音となりました」 三浦「やはり10年の重みを感じますね。このトリオには、友達が3人集まってやっているような自然さを感じます。同世代のこういう仲間に巡り会えて、本当にラッキーです」 もともと友人同士だったわけではなく、録音の企画のために声をかけられて集まったという3人。そのため、デビューのときは河口湖のほとりで合宿をしてから録音に臨んだ。そしてすっかり意気投合。それでもトリオ名をつけないでいるのは、それぞれソリストとしての活動のうえで個性を持ち寄るアンサンブルでありたいという想いがあるからだという。結果として、定期的に集まっては多彩なレパートリーを取り上げる人気トリオとなった。 遠藤「トリオの形だからこそ、うまく続けてこられたのでしょう……弦楽四重奏のように一つの和音をみんなで奏でるのとは、少し違っていたかもしれません。今回の録音は、気を遣わず考えを伝え合い、音楽をかなり掘り下げながら進めることができました」 12月25日に行われるコンサートの曲目は、CDデビュー時のラヴェルとは雰囲気の異なるショスタコーヴィチの2曲のピアノ三重奏曲と、坂本龍一の6曲のピアノ三重奏曲。 遠藤「賜紀ちゃんがチャイコフスキーコンクール最高位ということもあって、ロシアものに引き寄せられていきました。ショスタコーヴィチの音楽には、きれいなメロディから抽象的な表現まで、幅広い魅力があります」 三浦「普通、ピアノ・トリオではピアノの音が多いですが、この作品は三者が均等と言っていいくらい。ショスタコーヴィチは、ピアノを和声を作り出す楽器として見ていなかったことがわかります」 川久保「若い頃に書かれた第1番と、戦争後の第2番には大きな差があるので、そこを意識しました。暴れるところは、最大限に暴れなくてはなりません」 麗しい3人が紡ぎ出すショスタコーヴィチ。そこに、「ラストエンペラー」などの坂本龍一作品が合わせられる。坂本自身がトリオ・ツアーで使用した譜面が用いられるそうで、これを演奏するのは、本人たち以外では初めて。「ミニマル・ミュージック系の作品もあってすごく格好いい」(遠藤)、「好きな曲ばかりなので、録音時にも演奏していて本当に楽しかった」(川久保)、「リズムの取り方や感情の込め方など、クラシックとは少し違うルールで考える必要があり、新鮮」(三浦)と、それぞれに作品の魅力を語る。 人として、演奏家としてお互いに刺激を与え、変化を感じながら歩んできた3人。また新たなレパートリーに挑んだことで、10年がたった今回の演奏でも、また違った化学反応を見せてくれることだろう。結成10周年記念コンサート 坂本龍一 × ショスタコーヴィチ 12/25(水)19:00 紀尾井ホール問 チケットスペース03-3234-9999https://www.ints.co.jp/ 【CD】『ショスタコーヴィチ:ピアノ三重奏曲第1番、第2番』AVCL-84101 ¥3000+税『坂本龍一:ピアノ三重奏曲集』AVCL-84102 ¥2000+税エイベックス・クラシックス 12/18(水)同日発売川久保賜紀(ヴァイオリン)遠藤真理(チェロ) 三浦友理枝(ピアノ) トリオ各々の個性を持ち寄り、ともに歩んできた10年取材・文:高坂はる香左より:川久保賜紀、三浦友理枝、遠藤真理 ©Yuji Hori

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