eぶらあぼ 2019.8月号2
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60KYOTO EXPERIMENT 京都国際舞台芸術祭 2019ウィリアム・ケントリッジ『冬の旅』視覚と聴覚が競い合う「冬の旅」文:吉岡 洋10/18(金)19:00 京都芸術劇場 春秋座(京都造形芸術大学内)問 KYOTO EXPERIMENT 事務局075-213-5839 https://kyoto-ex.jp/ 力強い声と深い楽曲解釈で知られるバリトン歌手のマティアス・ゲルネ、ザルツブルク音楽祭の芸術監督を務めるピアニストのマルクス・ヒンターホイザー、そしてモーツァルト《魔笛》をドローイング・アニメーションで演出し、昨年は日本でも上演され話題になった南アフリカの美術家ウィリアム・ケントリッジ。この3人が今秋、京都においてシューベルト『冬の旅』で出会う。 なぜ「冬の旅」なのだろう? 幼い頃ヨハネスブルグの家で、父親がレコードでこの曲を聴いていたと、ケントリッジは語る。たしかに、キッカケはそうした思い出かもしれない。だが、シューベルトがその早過ぎる死の前年(1827年)に作曲したこの作には、現代に通じる時代背景もある。徒弟修行の青年が根無し草となり、さすらい、ついには自死するという運命。その表層にはたしかに(「美しい水車小屋の娘」への)失恋があるが、深層には産業革命によってギルド的な職人の世界が壊れ、都市の工場労働へと変容してゆく歴史がある。 歌曲は19世紀初頭における若者の心象風景を、背景の映像は近代化と植民地主義がもたらす経験を描く。ゲルネの歌唱も、ケントリッジのイメージも共にパワフルであり、両者はひとつの舞台作品へと調和的に解消されることはなく、いわば闘い続けている。そのことが200年前のひとりの青年の絶望を、未完の問題として私たちの前に届けるのである。Festival d’Aix-en-Provence 2014 ©P.Berger/artcomart.クァルテットの饗宴2019 ドーリック弦楽四重奏団欧米が視線を注ぐ、英国でいま最も勢いのあるアンサンブルを聴く文:山田真一10/31(木)19:00 紀尾井ホール問 紀尾井ホールチケットセンター03-3237-0061 http://www.kioi-hall.or.jp/他公演 11/1(金)武蔵野市民文化会館(小)(0422-54-2011 7/21発売) イギリス生まれの凄腕のクァルテットがやってくる。イギリスといえば世界でも最も早く市民コンサートが普及した国。それだけに質の高いアンサンブルがいつの時代でも活躍した。その流れは今に至っても同じ。1998年、イギリス・サフォークでの夏期ミュージック・スクールの室内楽コースをきっかけにして結成されたドーリック弦楽四重奏団も、耳の肥えた音楽愛好家に鍛えられ今や同国の誇る団体として世界で活躍している。英国外ではコンセルトへボウ、ウィーン・コンツェルトハウス、ベルリン・コンツェルトハウスなどに出演しているが、2017年のカーネギーホール・デビュー・コンサートが高い評価を得て、北米でも頻繁に演奏する機会が増えた。 レパートリーは古典から現代曲までと幅広い。時代の趨勢で“ディスク”の録音機会が多いとはいえないながらも、シャンドス・レーベルを中心に多くのCDをリリースしている。グラモフォン誌推薦盤のハイドン、それにシューベルトはその代表だがウォルトン、ヤナーチェク、コルンゴルト、ジョン・アダムズなどの作品も室内楽ファンを魅了している。 澄んだ音色と落ち着いた音楽の運びはいかにも英国流で、聴いていて心地よい。10月の来日公演では得意とするハイドンから弦楽四重奏曲第38番「冗談」、お国もののブリテンの弦楽四重奏曲第3番、それにベートーヴェンの第13番「大フーガ付」というクァルテット好きには垂涎のプログラムだ。第6回大阪国際室内楽コンクールの優勝者だけに、“恩返し”の来日ともいえるこの秋の公演に注目だ。©George Garnier

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