eぶらあぼ 2019.8月号2
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Presented by Tokyo Opera City Cultural Foundation 5月初旬、イタリア北部のヴィチェンツァの街で毎年開催される「パラーディオへのオマージュ Omaggio di Palladio」音楽祭において、名匠アンドラーシュ・シフがカペラ・アンドレア・バルカを率いてベートーヴェンのピアノ協奏曲全曲ツィクルスを弾き振りした。16世紀の名建築家パラーディオの遺作であり、世界遺産にもなっているオリンピコ劇場での一大イヴェントに、地元の名士はもちろんのこと、ドイツやスイスなどからもシフの友人や支持者が多く駆けつけた。 カペラ・アンドレア・バルカは、シフの音楽活動においてきわめて重要な位置を占めるオーケストラ。もともと1999年に彼がモーツァルトのピアノ協奏曲全曲演奏をスタートした折に結成され、主としてザルツブルク・モーツァルテウムでシャーンドル・ヴェーグの薫陶を受けた仲間が核となっていて、シフ自身「私にとって家族のような存在」と語る。彼らの活動の理念の中心にはつねに室内楽があり、今回の音楽祭でもそれは強く感じられた。 シフの演奏といえば知性的で端正な印象が強いが、今回のベートーヴェンのピアノ協奏曲においてはカペラ・アンドレア・バルカの気のおけない仲間に囲まれ、いつもよりも自在で思い切りのよい溌剌とした演奏を展開、指揮者のいるオーケストラとの共演では実現できないようなソリストとオーケストラの真の対話を聴かせてくれた。とにかくシフと奏者一人一人との結びつきが強固であり、舞台の上でお互いに語りかけ、機敏に反応し合いながら音楽を紡いでいく。オーケストラは基本的にモダン楽器だが、ピリオド奏法に精通している奏者も多く、古楽寄りの演奏スタイルといえよう。 コンサートマスターは、アーノンクール時代のウィーン・コンツェントゥス・ムジクスの首席奏者を長年務め、モザイク四重奏団のリーダーとしても知られるエーリッヒ・ヘーバルト。創設メンバーの一人で、このグループとのプロジェクトは自分の年間の活動の中で最優先しているという。「シフのような天才音楽家とともに演奏できることは本当に幸せです。彼が惑星だとすれば、私たちはその周りを回る衛星のような存在ですが、毎公演、全員が持てる力を100パーセント出し切って、ともに音楽を作り上げるアンサンブルなのです」と語る。またヴィオラ奏者のアネット・イッサーリスも「ここでの体験は他のどのオーケストラとも違い、つねに室内楽を奏でているよう。シフは私たちを彼の深遠なる芸術の宇宙に引き込んでくれるのです」と話す。 この秋、シフとカペラ・アンドレア・バルカは創設20周年にして初の日本公演を行い、東京オペラシティコンサートホールでは今回のヴィチェンツァと同じ最高の顔ぶれによるベートーヴェンのピアノ協奏曲全曲を二晩にわたって聴くことができる。実はめったに遠方への演奏旅行を行わないグループだが、今回はぜひ日本の聴衆に聴いてほしいと特別に企画されたときくので、どうぞこの機会をお聴き逃しなく!サー・アンドラーシュ・シフベートーヴェン:ピアノ協奏曲全曲演奏会11/7(木)19:00ベートーヴェン:ピアノ協奏曲第2番・第3番・第4番11/8(金)19:00ベートーヴェン:ピアノ協奏曲第1番・第5番「皇帝」東京オペラシティ コンサートホール各日S¥14,000 A¥12,000 B¥10,000(残席僅少)(C・D予定枚数終了)問 東京オペラシティチケットセンター03-5353-9999https://www.operacity.jp/初の日本公演でベートーヴェンのピアノ協奏曲全曲を披露!文:後藤菜穂子カペラ・アンドレア・バルカ ©Angelo Nicolettiサー・アンドラーシュ・シフ(指揮/ピアノ)カペラ・アンドレア・バルカサー・アンドラーシュ・シフ ©Angelo Nicoletti

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