eぶらあぼ 2019.8月号2
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30 日本ならではの雰囲気を“借景”に、世界最高レベルのオペラを楽しむ…。野外公演が珍しくない欧米にあっても、決して成し得ない“唯一無二”の体験を実現してきた「ジャパン・オペラ・フェスティヴァル」。今年はいよいよ、その舞台に最もふさわしいといえるプッチーニの傑作《蝶々夫人》を上演する。 このプロジェクトは、「日伊オペラ国際共同制作」の形で2015年にスタートし、レオンカヴァッロ《道化師》を姫路城備前丸特設ステージなどで上演。翌年には「ジャパン・オペラ・フェスティヴァル」と銘打ち、平城宮跡大極殿前でプッチーニ《トゥーランドット》(コンサート形式)が披露され、以後も熊本城二の丸広場でのヴェルディ《椿姫》、名古屋城天守閣前広場でのプッチーニ《トスカ》と毎年上演を重ね、「日本でしかできないオペラ体験」として大きな反響を呼んできた。 ボローニャフィルハーモニー管弦楽団芸術監督の吉田裕史を筆頭に、第一級の音楽家たちと協力し、本物のオペラを追求するひたむきさと高い芸術性で、「世界5大オペラ・フェスティヴァルの一角に食い込みたい」との気概は、野心的かつ意欲的。伝統的なクラシックオペラの上演、オーディション選出での実力派キャスト、世界的なアーティストとの共同制作による舞台装置や衣裳、照明の導入…と、様々なコンセプトに基づき開催されている。 中でもユニークなのは、遠くに見える山々なども庭園の一部とみなす、「借景」の技法を採り入れていること。ライトアップされた天守閣なども舞台装置の一部に、刻々と変わりゆく周辺の情景。そして、イタリアで生み出されたオペラと、日本の伝統文化との融合。まさに一期一会の体験は、聴衆の心に忘名古屋城天守閣と本丸御殿をバックに“唯一無二”のオペラを上演文:笹田和人れ得ぬ感動を刻み付けると共に、文化財の在り方にも一石を投じることとなった。 そして今年も、名古屋城天守閣前広場の特設ステージが会場に。ここで上演されるのは、1904年の初演以来、世界中の人々に愛されている、日本とイタリアの文化を融合させた“結晶”とでも言うべき《蝶々夫人》。アメリカ海軍士官ピンカートンを一途に想う大和撫子の悲恋を縦糸に、「さくらさくら」など日本の曲も織り込まれた名旋律を横糸とした傑作ほど、このプロジェクトにふさわしいものはないだろう。 タイトルロールには、シチリア出身のレナータ・カンパネッラとレッジョ・ディ・カラブリア出身のマリリー・サントーロ、相手役ピンカートンにはロレンツォ・デカーロとマックス・ホタという、イタリアで活躍する実力派によるダブル・キャスト。演出は名バス歌手でもあるガブリエーレ・リビス、照明デザインはジャン・ポール・カッラドーリが担当。長年このフェスティヴァルに関わってきた、吉田の指揮によるボローニャフィルハーモニー管弦楽団が奏でる音楽で物語が進行する。 また、ボローニャフィルは、吉田の指揮により《蝶々夫人》のハイライトや、オペラの名序曲の数々を披露する「特別ガラコンサート」を川崎で開く。ジャパン・オペラ・フェスティヴァル2019野外オペラ《蝶々夫人》ジャパン・オペラ・フェスティヴァル2019野外オペラ《蝶々夫人》9/26(木)、9/27(金)、9/28(土)、9/29(日) 各日18:00名古屋城天守閣前広場 特設ステージボローニャフィルハーモニー管弦楽団 特別ガラコンサート9/30(月)19:00 ミューザ川崎シンフォニーホール問 さわかみオペラ財団0570-023-223https://sawakami-opera.org/昨年の《トスカ》の模様吉田裕史
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