eぶらあぼ 2019.7月号
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58ニコラ・アンゲリッシュ ピアノ・リサイタル熟成した深い音色美が引き立つドイツ王道プロ文:伊熊よし子10/15(火)19:00 紀尾井ホール問 カジモト・イープラス0570-06-9960 http://www.kajimotomusic.com/ 1970年アメリカ生まれのニコラ・アンゲリッシュは、ピアノ好きの心を強くとらえるピアニストである。テクニックは安定し、長年熟成したレパートリーを組んで伝統的な演奏を聴かせ、しかも常に新しさを探求し、さらに弱音の美しさには定評がある。彼はパリ国立高等音楽院で学び、アルド・チッコリーニ、イヴォンヌ・ロリオ、ミシェル・ベロフをはじめとする音の美しいピアニストに教えを受けた。それゆえ、自身の響きも非常に美しい。 現在は国際舞台で幅広く活躍し、ソロ、オーケストラとの共演のみならず、室内楽にも意欲を示し、各地の名手たちと共演を重ね、日本では諏訪内晶子との共演も多い。彼はさまざまな器楽奏者からオファーが絶えない人気ピアニストなのである。 アンゲリッシュは古典派・ロマン派を得意としているが、今回プログラムに組んだのはJ.S.バッハ、ブラームス、ベートーヴェン、シューマンというドイツ・オーストリアの王道をいく作品。とりわけ彼の美音が生かされるベートーヴェンの「月光」と、シューマンの傑作と称される「クライスレリアーナ」が聴きどころである。ショパンに捧げられた「クライスレリアーナ」は物語性に富む8曲からなり、演奏の難しさでも知られる。アンゲリッシュの成熟し、バランスのとれた演奏は、聴き手を作品のすばらしさへと近づける。伝統に即しながら、新しい響きを追求する彼のみずみずしいシューマンに期待したい。©Jean-François-Leclercq/Erato東京文化会館 オペラBOX オペラ 《泣いた赤おに》心を打つ児童文学の名作による日本オペラ、4年ぶりの再演文:笹田和人9/22(日)、9/23(月・祝)各日15:00 東京文化会館(小)問 東京文化会館チケットサービス03-5685-0650 https://www.t-bunka.jp/ 人間と仲良くなりたいと願っていた、心優しい赤鬼。しかし、その姿ゆえ、誰も近づこうとしない。そんな赤鬼を不憫に思った親友の青鬼が「自分が悪者のふりをして村で暴れ、君が退治したら、人間と仲良くなれるはず」と提案。策は功を奏し、赤鬼は人間たちと仲良しに。しかし、赤鬼が訪ねると、青鬼の家に彼の姿はなかった…。 浜田廣介による、児童文学の傑作『泣いた赤おに』。昭和8(1933)年に発表されて以来、子どもだけでなく、大人たちの心も捉え続けてきた。これを原作とする、松井和彦の台本・作曲によるオペラ《泣いた赤おに》(全1幕4場)は、名作オペラを小空間で気軽に楽しむ東京文化会館のシリーズ「オペラBOX」の一環で、2015年に初演。その好評を受けて、4年ぶりとなる同シリーズでの再演が決定した。 初演の舞台も手掛けた久恒秀典の演出、作曲者の松井が指揮。宮里直樹(赤おに、テノール)と岡昭宏(青おに、バリトン)をはじめ、龍進一郎(木こり、バリトン)、盛田麻央(木こりの娘、ソプラノ)ら東京音楽コンクール入賞者を中心とした若手実力派が、主要キャストを演じる。 そして、歌と話を交え、“舞台回し”をこなすナレーターには、日本を代表するソプラノの一人、高橋薫子を迎える。さらに、連携企画として同会館が開いているワークショップ「オペラをつくろう!」を受講する子どもたちが、舞台美術の製作や合唱・合奏で参加、ヴァイオリンの岸本萌乃加ら器楽陣がバックアップ。フリーアナウンサーの朝岡聡が、プレトークで案内役を務める。初演より高橋薫子岡 昭宏宮里直樹
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