eぶらあぼ 2019.7月号
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54藤岡幸夫(指揮) 東京シティ・フィルハーモニック管弦楽団幕開けは得意の北欧・英国プロで華やかに文:江藤光紀第326回 定期演奏会 7/26(金)19:00 東京オペラシティ コンサートホール問 東京シティ・フィル チケットサービス03-5624-4002 http://www.cityphil.jp/ パッションの迸るダイナミックな指揮が人気の藤岡幸夫が、この4月に東京シティ・フィルの首席客演指揮者に就任した。関西フィルとの好調な共演は伝えられていたが、これからは首都圏でもその雄姿に定期的に触れることができそうだ。 就任披露となる同楽団7月定期には、自らのバックボーンを反映した選曲で臨む。まずはギリシャ神話に想を得たシベリウスの交響詩「大洋の女神」。様々な表情を見せる大海とそれを支配する女神のたおやかさを、シベリウスらしい爽やかな筆致で描いている。フィンランド人を母に持つ渡邉曉雄の最後の愛弟子として、シベリウスは藤岡がライフワークとする作曲家の一人だ。 続くピアソラ「ブエノスアイレスの四季」(デシャトニコフ編)では、ソリストに神尾真由子を迎える。チャイコフスキー・コンクールの覇者として注目を浴びて以降も、正統派ヴァイオリニストとして着実に歩んでいるが、今回は珍しくクロスオーバーに挑む。藤岡の情熱的なタクトの下で、新たな可能性が開かれるかもしれない。 名刺代わりの披露公演のメインを飾るのは、ウォルトンの交響曲第1番。渡邉に師事した後、藤岡はさらに英国に学び、キャリアの重要な部分もこの地で作ってきた。いわばイギリス人が納得するイギリス音楽の腕を本場で磨いたのである。ウォルトンの本作は、颯爽としたダイナミズム、陰りを見せながらも品位のある抒情、シンフォニーの醍醐味を味わわせてくれる壮大なフィナーレまで、モダンなバランス感覚が全編に漲る。聴きどころ満載の藤岡の十八番だ。ヘンリク・ナナシ(指揮) 読売日本交響楽団注目の俊才二人が醸す音のスペクタクルとエキゾチシズム文:飯尾洋一第590回 定期演奏会 7/11(木)19:00 サントリーホール問 読響チケットセンター0570-00-4390 https://yomikyo.or.jp/ 2018年3月に読響と初共演が予定されていながら、病気でキャンセルとなったヘンリク・ナナシが、ようやくこの7月に読響の指揮台に立つ。「ナナシ」というなじみの薄い姓に「どこの人だろう」と首をかしげる方も多いかもしれないが、出身はハンガリーだ。バルトーク音楽院で作曲とピアノを学び、ロイヤル・オペラでアントニオ・パッパーノのアシスタントを務めた後、めきめきと頭角をあらわし、ベルリン・コーミッシェ・オーパー音楽総監督を務めるなど、華々しい活躍をくりひろげている。 今回の読響との共演にあたっては、ナナシの“お国もの”となるコダーイの「ガランタ舞曲」、バルトークの「管弦楽のための協奏曲」が選ばれた。ともにハンガリー民謡と20世紀前半のモダニズムが融合した傑作であり、オーケストラの高い機能性が求められる作品でもある。いわば、土の香りのするスペクタクル。ナナシと読響の化学反応に注目したい。 また、サン=サーンスのピアノ協奏曲第5番「エジプト風」では、リュカ・ドゥバルグがソロを務める。2015年のチャイコフスキー国際コンクールで、優勝候補の筆頭と目されながらも4位に終わったが、異彩を放つ演奏でギャラリーを沸かした“鬼才”である。 アフリカをくりかえし訪れた大旅行家サン=サーンスは、パリの寒さを逃れて向かったエジプトでこの曲を書いた。エキゾチックなメロディが奏でられ、旅情をかきたてる。ドゥバルグのピアノはどんな旅の光景を見せてくれるのだろうか。左より:ヘンリク・ナナシ ©Gunnar Geller/リュカ・ドゥバルグ ©Felix Broede/SONY Music Entertainment神尾真由子藤岡幸夫 ©青柳 聡
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