eぶらあぼ 2019.7月号
33/201
32宮田 大Dai Miyata/チェロこれは必見! チェロ界の若きエースがセミナーを開催し、アンサンブルを共にする取材・文:宮本 明 写真:武藤 章 若い音楽家の育成事業を精力的に展開するローム ミュージック ファンデーションが主催する「セミナー コンサート」にこの夏、宮田大のチェロクラスが開設される。1986年生まれ。日本のチェロ界の若きエースは、後輩たちに何を伝えるのだろう。 「自分の弟子はいませんが、師である倉田澄子先生の下見で教えることは多いので、レッスンすること自体は意欲的にやっていました。教えることで自分に返ってくるものは大きいですね。他人に説明することで自分の解釈がわかることがある。たとえば生徒に『ヴィブラートかけすぎ』と注意したとして、でもそこは自分が弾くときもたくさんヴィブラートをかけている。ではなぜ気になったのか。自分が本当に欲しい音を出すためでなく、思いが乗っていない、装飾のためのヴィブラートになっているからだったりするわけです」 公募による受講生は、香月麗、佐山裕樹、菅井瑛斗、水野優也、森田啓佑。5人ともすでにチェロ奏者としてのキャリアを歩き始めている、20歳過ぎのホープたちだ。本誌読者の中には、すでに彼らの演奏を耳にしている熱心なファンもいるだろう。 「いま日本のチェロの若い子たちのレベルがすごいですよね。この5人も本当に優秀なので楽しみです。自分も同じ年齢のころ、ドイツとスイスの学校で勉強していましたが、とにかくいろんなことを吸収しようという時期です」 しかし、吸収するばかりだと、パンクしてしまう危険もあるのだという。 「人から学ぼうとしすぎて、自分自身がなくなってきちゃうんですよ。水が多すぎてこぼれちゃうみたいな感じです。でも水を受ける器は結局自分の中にしかありません。それを広げるために、自分にどんな個性があって、どんな演奏ができる奏者なのかということを、再認識してくれればいいなと思います」 セミナーは、5日間の公開レッスンと、修了コンサートからなる。 「このセミナーの一番いいところは、一人1時間半のレッスンが5日間、合計7時間半あること。かなりの時間をかけて教えることができます。客席の聴講の方の視線もあるし、たぶん初日はみんな緊張してプルプルしているのでしょうけれど、5日間かけて、自分が出したかった音を出せるようになってもらいたいと思います」 教わるほうは1時間半×5日間だが、教えるほうは7時間半×5日間だ! 「でも、一日7時間半も自分自身も勉強できると思えば(笑)。たぶん受講生たちが持ってくるレッスン曲は重複すると思うのですけれど、同じ曲を別々の生徒たちに教えるというのも楽しみです」 宮田の10年来の相棒、ピアニストのジュリアン・ジェルネも、サポート役として、ともに教える。 「ピアニストの視点から見たチェロを教えてもらいます。自分もドイツで勉強していたときに、ピアニストが教えるコースがあったんですね。たとえばベートーヴェンのソナタには、やはりピアニスティックに弾かなければならないところがたくさんありますから」 修了コンサートでは、各生徒たちが5日間の成果を披露するソロだけでなく、宮田のソロ(ベートーヴェン:《魔笛》の主題による変奏曲と、ポッパー:ハンガリー狂詩曲)、そして“師弟”のチェロ六重奏によるJ.シュトラウスⅡ:《こうもり》序曲(ヴェルナー・トーマス=ミフネ編曲)も演奏する。 「コンサートというより、セミナーの打ち上げみたいな感じですね(笑)。演目も華やかで、チェロの魅力を存分に味わっていただけるかと思います。入場料も1,000円と安いので、ぜひ気軽に一緒に楽しんでください。できればレッスンもじっくり聴講していただいて、彼ら5人のファンができればいいなと思っています」 音楽が作られてゆく過程を目の当たりにする公開レッスンは、音楽を学ぶ人はもちろん、音楽を聴く側のファンにとっても、とても実りの多い機会だ。教える宮田の真摯な人となりにも直に接することができるはず。真夏の京都で繰り広げられる濃密なチェロの時間を、ぜひ共有したいもの。音楽は現場が楽しい!
元のページ
../index.html#33