eぶらあぼ 2019.7月号
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28ファビオ・ビオンディFabio Biondi/指揮・ヴァイオリン“美音”にこだわるイタリア古楽の雄によるヘンデルの傑作オペラ舞台初上演取材・文:加藤浩子 イタリア古楽界をリードするアーティストといえば、ファビオ・ビオンディ(ヴァイオリン/指揮)。自ら創設した古楽オーケストラのエウローパ・ガランテとともに、ヴィヴァルディの「四季」からベッリーニやヴェルディのオペラまで、新鮮な響きをもたらしてきた。近年際立って強烈な印象を残したのが、神奈川県立音楽堂におけるふたつのヴィヴァルディ・オペラ《バヤゼット》と《メッセニアの神託》の日本初演である。「ヴィヴァルディの後期のオペラで、彼が自分のスタイルを変えて豊かな響きを得た、とても面白い時期の作品」(ビオンディ)が熱狂的に迎えられたことは、ヨーロッパに比べてまだまだ遅れている日本のバロック・オペラの受容において大きな一歩だった。 「かつてバロック音楽は退屈だとされていましたが、今はとても面白いと思われるようになっています。聴衆も新しいレパートリーを求めているし、自分たちも色々な作品を取り上げていきたい」 3度目となる県立音楽堂でのオペラは、今いちばん「旬」な作曲家のひとりであるヘンデルの《シッラ》。紀元前1世紀のローマに実在した有名な暴君が、妻の献身で命を助けられたことをきっかけに改心するまでを描く。すでにウィーンなどで公演を重ね、録音も絶賛され、満を持しての日本での披露だ。日本初演であることはもちろん、舞台付きの上演(演出は《メッセニア》で共働した彌勒忠史)という点で世界初演になる。 「《シッラ》はヘンデル初期の音楽の集大成です。ロンドンに来たばかりで順風満帆だった時代の作品で、彼のそれまでの音楽の最も美しいものがぎっしり詰まっている。音楽の流れが速いこともあって、上演時間が短いのも利点です。当時と今では聴衆の聴き方も違うのだから、今のようにおとなしく座って聴くだけだと4時間の演奏時間は長すぎる。《シッラ》がコンパクトなオペラになったのは、バーリントン邸での私的な機会のために作曲されたからでしょう。ヘンデルは後に一般の人に聴いてもらうために、音楽の大半を《アマディージ》というオペラに転用しました。それくらい音楽が素晴らしいということです。楽譜でいくつか欠けている部分は他のオペラからの曲で補いました。ストーリーで強調したい点は、権力のおかしさ、醜さですね。クライマックスが急転直下で進展が速いので、そこは演出の腕の見せどころです」 バロック・オペラの上演で鍵となるのが、即興や装飾だ。 「バロック音楽の価値はそこにあるといっていいでしょう。楽器に関してはその場で行いますが、歌手たちの即興や装飾の大半は私が考えます。作品が成立した場所によって様式が違うので、それを理解してやらないと表面的になってしまう。ヴェネツィアで書かれた作品には、ヴェネツィア風の装飾が必要です」 ビオンディが気に入っているのが、神奈川県立音楽堂という「ハコ」である。 「神奈川県立音楽堂は当時のように歌手とオーケストラが同じ高さで演奏できるので、両者が一体化することができ、この時代のレパートリーを演奏するにはぴったりです。音響もいいので、歌手の丸くて柔らかな声を聴衆にきちんと届けることができるのです。私が『古楽』にめざめたきっかけは、1975〜6年にアーノンクールとレオンハルトの演奏に触れたことです。なかでも大きかったのは、彼らが演奏した『マタイ受難曲』との出会いでした。あれは完璧な音楽ですね。それで好奇心を刺激され、作曲家や時代や場所が何を求めているか知りたくなったのです。 イタリア人としておそらくアーノンクールたちと違うのは、“美しい音”へのこだわりです。たとえば『イ・ムジチ合奏団』と私たちは、演奏スタイルは違うかもしれませんが、柔らかく丸く温かな“イタリアの音”を求める点では共通しています。バロックの『音』は美しくない、と思っているひとが多いのですが、イタリアではそうではない。当時の作曲家たちが“美しい音”を追い求めていたことは、楽譜から読み取れるのです。今回の《シッラ》でも、美しいサウンドの最適なホールで良い演奏ができると思います」

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