eぶらあぼ 2019.6月号
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68CD『キアロスクーロ ─陰影─』日本アコースティックレコーズNARD-6010¥3000+税©Jumpei Tainaka赤坂智子(ヴィオラ)& 大田智美(アコーディオン)バッハとピアソラ、それぞれの光と影取材・文:小室敬幸Interview とあるプロデューサーの提案で実現した初共演から2年。ヴィオラの赤坂智子とアコーディオンの大田智美による話題のデュオが今春、待ち望まれていたCD『キアロスクーロ─陰影─』を発表した。 「一緒に演奏していると自分の音とアコーディオンの音の区別が分からなくなる瞬間があるんです」と語るのは赤坂だ。まったく仕組みの異なる楽器であるにもかかわらず、その相性の良さは想像以上。アルバム前半にはヴィオラ奏者でもあったフランツ・ヨーゼフ・バイヤー(あのモーツァルトのレクイエム「バイヤー版」の校訂者!)と細川俊夫のアレンジによるバッハの6つのコラールを収録。オルガンとヴィオラ・ダ・ガンバのようなサウンドを基調にしつつ、柔らかく陰影豊かなニュアンス付けが施され、古さと新しさを兼ね備えた新鮮なバッハ像を描き出す。 一方、後半のピアソラでは両者ともに敬愛するあのイタリアの名歌手ミルバからの影響が強いようだ。 「いろいろなピアソラの録音を聴いたのですが、結局印象に残っているのは昔から好きだったミルバでしたね。様々な要素が混じっていて、上品でも下品というわけでもない。まさにアルバムタイトルのキアロスクーロ(陰影)という感じ。西洋版の美輪明宏とでもいいますか(笑)」と赤坂が語れば、大田は「おこがましくはあるのですが、イメージとして赤坂さんがミルバ、私がピアソラだと思いながら演奏していました(笑)」と返す。 CDのラストを飾るミルバお得意のレパートリー「チェ・タンゴ・チェ」で、赤坂がミルバの歌唱をどうヴィオラに翻訳したのかにも注目されたい。そして本盤の白眉となるのが、本来はフルートとギターのために書かれたものの、様々な楽器によってカバーされている「タンゴの歴史」だろう。原曲のイメージにとらわれすぎないことで、この作品の新たな側面を照らすことに成功した。 「ピアソラをバンドネオンではなく、アコーディオンで弾くことへの葛藤はあります。あの音はこの楽器では出ないですし、あそこに近づけたいという思いはありつつも、逆にバンドネオンに出来ないこともあるんです。アコーディオンの良い部分をピアソラのなかで活かせれば…」という大田の姿勢によって、クラシック音楽の演奏家によるピアソラ・カバーのなかでも屈指の名盤がうまれたのだ。 「引き続きピアソラのレパートリーは増やしつつ、今後は作品の委嘱もしていきたい」と意気込む二人には、末永い活動を期待したい。6/2(日)14:30、6/5(水)19:00 近江楽堂(東京オペラシティ3F)問 ビーフラット・ミュージックプロデュース03-6908-8977http://gregorio.jp/zammai/音楽三昧2019 《ゴルトベルク変奏曲》“三昧サウンド”で聴くバッハの歴史的傑作文:寺西 肇©A.Muto 鍵盤楽器のための無数の作品の中でも、最高峰に位置づけられるバッハ「ゴルトベルク変奏曲」。既成概念にとらわれぬ柔軟な発想で、様々な作品を“再創造”してきたアンサンブル『音楽三昧』の手にかかると、果たして、いかなる変容を遂げるのか。 1984年に結成され、モダン楽器とチェンバロやトラヴェルソなどのピリオド楽器、両方を駆使し、バロックから近代に至る、管弦楽や鍵盤楽器のための様々な作品を編曲・演奏してきたアンサンブル『音楽三昧』。今回はついに、バッハの謎多き傑作に目を向けた。 1741年に出版され、冒頭と末尾で奏される「アリア」と30の変奏から成り、厳密な数学的秩序の上に構築されている「ゴルトベルク変奏曲」。今回は変奏ごとに、様々な組み合わせによるピリオド楽器で曲が進められる。 「作曲家に対する最大の賛美は、『一心不乱に遊ぶこと』によってのみ達成される」と編曲を担当する、チェロの田崎瑞博。ステージは、当曲のCDリリース記念だが、以前に録音を発表した「イタリア協奏曲」も併せて披露する。
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