eぶらあぼ 2019.6月号
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51小泉和裕(指揮) 東京都交響楽団充実顕著な実力者がおくる十八番二題文:柴田克彦第881回 定期演奏会Aシリーズ 7/16(火)19:00 東京文化会館問 都響ガイド0570-056-057 https://www.tmso.or.jp/ 「こんな協奏曲が書けるとわかっていたら、真っ先に自分が書いていただろうに!」…これは、ドヴォルザークのチェロ協奏曲を知った際に発したブラームスの言葉だ。ブラームスは自ら世に出した後輩に、ドヴォルザークは恩人に敬意を抱き、二人は厚い友情で結ばれていた。都響の7月A定期は、この二人の本格作が並ぶ相性抜群のプログラム。前半のドヴォルザークのチェロ協奏曲は、言わずと知れた同ジャンルの最高峰、後半のブラームスの交響曲第2番は、彼の交響曲の中でも明朗でふくよかな作風の人気作である。異国アメリカで思い描いた故郷ボヘミアの情景と、風光明媚な湖畔の避暑地ペルチャッハの風景を反映した両作の組み合わせは、自然の香りが漂い、雄大にしてノスタルジック。それらを日本屈指の重層的サウンドを誇る都響の演奏でじっくりと味わえる点が、まずは今回の妙味となる。 指揮は終身名誉指揮者の小泉和裕。近年、演奏にいっそうの深みを増している彼は、昨シーズンの都響定期でも、ドヴォルザーク、ブラームスの交響曲で雄弁かつ濃密な名演を展開し、大喝采を浴びている。それゆえ今回も分厚い弦楽をはじめとする同楽団の特質を活かした濃厚な音楽を聴かせてくれるに違いない。チェロは大人気の宮田大。今年はロストロポーヴィチ国際チェロコンクール優勝から10周年の節目にあたる。むろんドヴォルザークは再三弾いてきた十八番だが、シンフォニックな同曲に相応しいバックを得た今回は、現時点での集大成となる大スケールの熱演が期待される。 これは、充実を極めた演奏陣で王道の名作を味わう、聴き応え十分のコンサートだ。宮田 大 ©Daisuke Omoriユベール・スダーン(指揮) 東京交響楽団キーワードは“マンフレッド”文:飯尾洋一第671回 定期演奏会 6/15(土)18:00 サントリーホール問 TOKYO SYMPHONY チケットセンター044-520-1511 http://tokyosymphony.jp/第147回 名曲全集 6/16(日)14:00 カルッツかわさき問 ミューザ川崎シンフォニーホール044-520-0200 https://www.kawasaki-sym-hall.jp/ 音楽監督ジョナサン・ノットとともに快進撃を続ける東京交響楽団だが、その礎を築いたのは、なんといっても10年間にわたって音楽監督を務めた前任者ユベール・スダーンだ。その功労者スダーンが、6月に東響の指揮台に帰ってくる。名コンビの健在ぶりを示してくれることだろう。 シューマンの「マンフレッド」序曲とピアノ協奏曲(独奏は菊池洋子)、チャイコフスキーの「マンフレッド交響曲」というプログラムも魅力的だ。シューマンもチャイコフスキーもしばしば文学作品からインスピレーションを受けて曲を書いた作曲家だが、ともにバイロンの劇詩『マンフレッド』にちなんだ作品を残している。そして題材を反映してなのか、両曲ともどこか思索的で、玄妙な味わいを持っているところがおもしろいところ。道ならぬ恋で愛する人を失ったマンフレッドは、神秘の力により精霊を呼び出し「忘却」を求めるが、願いは叶えられず、代わりに「不死」の呪いをかけられる。マンフレッドは死を求めてアルプスを彷徨う…。原作は多くの日本人にとって分かりやすいともなじみ深いとも言えないが、むしろこの2曲からマンフレッドの漠然としたイメージを描いている人も少なくないのでは。 「マンフレッド」といういくぶん地味なテーマのプログラムに華やかさを添えるのが、ピアニストの菊池洋子。シューマンならではの豊かなファンタジーを披露してくれることだろう。菊池洋子 ©Harald Homann小泉和裕 ©Fumiaki Fujimotoユベール・スダーン
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