eぶらあぼ 2019.6月号
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41ベルトラン・ド・ビリー(指揮) 新日本フィルハーモニー交響楽団聴き手の心を浄化する、ブラームス合唱作品の美しき響き文:山田治生第607回 定期演奏会 ジェイド〈サントリーホール・シリーズ〉7/4(木)19:00 サントリーホール問 新日本フィル・チケットボックス03-5610-3815 https://www.njp.or.jp/ ベルトラン・ド・ビリーが新日本フィルに客演し、ブラームスの合唱とオーケストラのための作品を指揮する。ブラームスは、若い頃からデトモルトやハンブルクで女声合唱団を指揮し、ウィーンのジングアカデミーの指揮者を務めるなど、合唱との関わりが深く、合唱に素晴らしい作品を残している。今回取り上げられるのは、「運命の歌」、「哀悼の歌」、そして「ドイツ・レクイエム」。天上の精霊と地上の人間を歌う「運命の歌」、画家で友人のアンゼルム・フォイエルバッハの死を悼んで作曲され、近年は「悲歌」と呼ばれることの多い「哀悼の歌」、シューマンや母親の死と関わりの深い「ドイツ・レクイエム」というように、生と死をテーマとした作品が並べられる。 ド・ビリーは、フランス出身ながら、ウィーン放送交響楽団の首席指揮者を務めるなど、ドイツ語圏での活躍も目覚ましく、ドイツ音楽の演奏に定評がある。日本でも、N響とのシューベルトの交響曲第8番「ザ・グレイト」、東京フィルとのベートーヴェンの交響曲第3番「英雄」とR.シュトラウスの「英雄の生涯」、新国立劇場での《アラベッラ》などの演奏が思い出され、新日本フィルとのブラームスでの名演を期待したくなる。合唱には、新日本フィルとの共演も多く、常に熱意のこもった演奏を聴かせてくれる、栗友会合唱団(合唱指揮:栗山文昭)。独唱に、ソプラノの髙橋絵理、バリトンの与那城敬という充実の布陣。小泉和裕(指揮) 九州交響楽団熟成コンビ7年目の気宇壮大なシーズン開幕文:柴田克彦第375回 定期演奏会 7/27(土)15:00 福岡シンフォニーホール問 九響チケットサービス092-823-0101 http://www.kyukyo.or.jp/ このところ小泉和裕の充実が際立っている。4楽団のポストを兼務する引く手数多の名匠も今年70歳。持ち前の堅牢な構築と弦楽器を分厚く鳴らした壮麗な表現に円熟味を加え、精緻かつ雄弁な名演を随所で展開している。中でも特筆されるのが、九州交響楽団の2018年9月定期のマーラー「千人の交響曲」(CDで耳にできる)。小泉はこの大作を見事に構成し、こまやかな抑揚とニュアンスに富んだ熱演で圧倒的な感銘をもたらした。 7月、九響で今度はマーラーの交響曲第3番を聴かせる。会場の改修工事のため、これが19/20シーズン=小泉音楽監督7年目の最初の定期。当初「夏の朝の夢」と題された同曲は、夏の開幕公演にまさしく相応しい。曲は、マーラーがアルプスの避暑地アッター湖畔で“自然への賛美”を描いた、全6楽章の超大作。第1楽章冒頭のホルン8本による印象的な旋律、トロンボーンの長いソロ、舞台裏の小太鼓、第3楽章の遠くで響く夢幻的なポストホルン、第4楽章の静謐なアルト独唱、第5楽章の女声&児童合唱の愛らしい歌声ほか、見どころ満載だし、美旋律が高揚する第6楽章は熱い感動間違いなしだ。 「千人」で魅せた構築力と迫真性から、今回も小泉のアプローチへの期待は絶大。機能性を増した九響の精妙な響きや色彩感、日本屈指のメゾソプラノ歌手・清水華澄の表情豊かな独唱、「千人」でも主軸をなした九響合唱団、久留米児童合唱団等の清澄なコーラスにも注目が集まる。7年目の熟成に加え、来年3月に東京公演も控えて意気上がるコンビの気宇壮大なシーズン開幕を、ぜひ生体験したい。清水華澄 ©Takehiko Matsumoto左より:ベルトラン・ド・ビリー ©Marco Borggreve/髙橋絵理/与那城 敬 ©Kei Uesugi小泉和裕 ©Ivan Malý
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