eぶらあぼ 2019.6月号
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1768月+夏の音楽祭(その2)の見もの・聴きもの2019年8月の曽そし雌裕ひろかず一 編 本号では前号に引き続き、夏の音楽祭を中心としたコメントを掲載しますが、スペースの関係で取り上げられなかった音楽祭、コメントできなかった要注目公演もたくさんあります。ご容赦のほどお願いいたします。 また◎印を付けた注目公演は、発売早々に完売となっているケースも十分に考えられます。その点もお含みおきの上、ご参照下さい。●【8月の注目公演】(通常公演分) 8月の通常公演として最大の注目は、ベルリン・フィル2019/20シーズン開幕初日(23日)に、ついに“首席指揮者”として登場しベートーヴェンの「第九」を演奏するキリル・ペトレンコ。彼はすでに今年の4月にローマでサンタ・チェチーリア国立管に客演して同じ曲を振っているが、速めのテンポでオケに高度な技術を要求する演奏だったと聞く。ベルリン・フィルの常任指揮者初お目見え公演にこの曲を持ってきた彼の意気込みは尋常ではないだろう。ちなみに、この演奏会の後、彼は様々な音楽祭にベートーヴェン「第九」を引っさげてベルリン・フィルとともに客演する。 一方、オペラでの注目は、フィンランド国立歌劇場でいよいよスタートするサロネン指揮によるワーグナーの「リング・チクルス」。まずは8月末から9月にかけて「ラインの黄金」が上演される。重厚で深い音色を追求するドイツ風のワーグナーとはおそらく一線を画する繊細・鮮烈な音楽が展開されそうなので、これは是非聴いてみたい公演だ。●【夏の音楽祭】(8月分)〔Ⅰ〕オーストリア 今年のザルツブルク音楽祭のオペラ公演も、なかなか興味深いものが並んでいる。指揮のクルレンツィス、演出のピーター・セラーズとくせ者同士が組んだ「イドメネオ」、ネトレプコ出演の「アドリアーナ・ルクヴルール」、ヘンゲルブロックの指揮するケルビーニ「メデア」(演奏はバルタザール・ノイマン・アンサンブルでなくウィーン・フィル)、ザルツブルク聖霊降臨祭音楽祭からの移行公演でもあるバルトリ出演のヘンデル「アルチーナ」、メッツマッハーとウィーン・フィルの組んだエネスク「エディプス王」、コスキー演出のオッフェンバック「地獄のオルフェ」(ウィーン・フィルの演奏するオペレッタも聴きもの)、それにドミンゴ出演の「ルイザ・ミラー」や昨年大評判を取ったウェルザー=メストの「サロメ」再演等々。 一方、オーケストラ公演でも、ヤンソンス、ムーティ、バレンボイム、ペトレンコ、ネルソンス、ハイティンクとメジャー級が勢揃い。ピションの登場するモーツァルト・マチネも要注目公演。器楽関係では、レヴィットのピアノによるマーラー:交響曲第10番のアダージョやタベア・ツィンマーマンのヴィオラ・リサイタルに興味を惹かれる。 「インスブルック古楽音楽祭」も、ブロスキ「ラ・メロペ」やチェスティ「ラ・ドリ」といった珍しいオペラをはじめ、カウンターテナー、サバドゥスのリサイタル、同じくベジュン・メータの出演するヘンデル「ジューリオ・チェーザレ」からのアリア集、この音楽祭常連となりつつあるアカデミア・ラ・キメラ演奏のヘンデル「オットーネ」など、老舗の古楽祭に相応しいなかなかの内容となっている。〔Ⅱ〕ドイツ 先月号の本欄では推測記事の段階だったが、「バイロイト音楽祭」の「ローエングリン」にネトレプコの出演する日が公式に発表になった。予想どおり8月14日と18日の2公演。ただし、情報として掲載しても、今後のチケット入手が事実上不可能であろうことはお許しをいただきたい。広域音楽祭の「シュレスヴィヒ・ホルシュタイン音楽祭」、「MDR音楽の夏」、「ラインガウ音楽祭」は公演数が多く、公演会場も多岐にわたるため、本文ではわずかな主要公演しか取り上げることができなかった。詳細はぜひ音楽祭HP等でご確認いただきたい。中でも、バッハ・コレギウム・ジャパンの鈴木雅明が「シュレスヴィヒ・ホルシュタイン音楽祭」の中でNDRエルプフィルに客演して「マタイ受難曲」を演奏するのは要注目。 また、毎年同じ記述になってしまうが、「ラインガウ音楽祭」では、本文に取り上げた地区の他にも、ヴィースバーデンから西に約20キロ離れたヨハニスブルク城(ガイゼンハイムの郊外)で、室内楽の優れた演奏会も数多く開かれている。「ブレーメン音楽祭」(8月分)では、旬のフランスのメゾソプラノ、マリアンヌ・クレバッサのリサイタルや、ガムゾウが補作完成させたマーラーの交響曲第10番(ガムゾウ版)をブレーメン・フィルで自ら指揮する公演などいずれも要注目公演。ちなみに、昨年の本欄で紹介したアンスバッハの「バッハ週間」は本文に掲載できなくなってしまったため、恐縮ながらホームページでご確認いただきたい(https://www.bachwoche.de/)。〔Ⅲ〕スイス 「ルツェルン音楽祭」は、相変わらず豪華オーケストラ公演の連続。ただ会場のコンツェルトザールの最上部は舞台からかなりの高さに達しているので高所恐怖症の方はご注意を。室内楽関係ではレヴィットがベートーヴェンのピアノ・ソナタを集中的に演奏する企画も要注目だが、82歳のスイスの作曲家トーマス・ケスラーの新作を取り上げるソプラノの角田祐子(かくたゆうこ)のリサイタルも見逃せない。 一方、スイスでは、高級山岳リゾート地で開催される夏の音楽祭から、今年も「グシュタード・メニューイン・フェスティバル」と「ヴェルビエ音楽祭」を本文で取り上げた。詳細はホームページをご参照のほど。〔Ⅳ〕イタリア ローマ歌劇場の夏の「カラカラ浴場跡」公演と「ヴェローナ野外音楽祭」という共に野外の公演で、ドミンゴがガラ・コンサートを開催する。バリトン歌手として完全復活したドミンゴの元気な姿はファンの如何に関わらず嬉しいものだ。トッレ・デル・ラーゴやマチェラータなど、同じく野外ステージで行われる音楽祭が多い中、通常の室内劇場で繰り広げられるロッシーニの饗宴が「ペーザロ・ロッシーニ・フェスティバル」。リピーターも非常に多い魅力的な音楽祭だ。〔Ⅴ〕フランス〔Ⅵ〕ベネルクス フランスの「ラ・ロック・ダンテロン国際ピアノ・フェスティバル」は充実したピアノ音楽祭だが、難点は野外の仮設ステージであることと現地周辺にホテルがほとんどないこと。ご留意のほど。一方、ベルギーやオランダでは古楽中心のハイレベルな音楽祭が複数開催されている。本文に挙げた「ユトレヒト古楽祭」、「ラウス・ポリフォニエ」はコアな古楽ファンにも大変評価の高い音楽祭なので、ぜひ一度詳細内容のご確認をお薦めしたい。〔Ⅶ〕イギリス〔Ⅷ〕北欧〔Ⅸ〕東欧 「プロムス」(8月分)、「エディンバラ国際フェスティバル」ともに、まずラトル指揮ロンドン響の公演が目を引く。ラトルは今年の夏の音楽祭で積極的なツアーを組んでいるので、是非「ロンドン響」の項でその内容をご参照いただきたい。スペインの「サンタンデール国際フェスティバル」、イタリア・メラーノの「南チロル・フェスティバル」といったあまり有名でない音楽祭にも登場している。なお「プロムス」と「エディンバラ」には、ハーディング指揮パリ管も登場して複数の公演を行う。「グラインドボーン・オペラ・フェスティバル」(8月分)での注目は、ティチアーティの指揮するドヴォルザークの「ルサルカ」だろうか。なお、本文に◎印までは付けきれなかったが、モーツァルトの「魔笛」とヘンデルの「リナルド」では、ロンドン・フィルではなく、エイジ・オブ・エンライトメント管がピットに入る。最近、ラトルも再び指揮をする機会の多くなってきた古楽系の優れたオーケストラで、この演奏も大いに期待できる。 なお、ルーマニアのブカレストで開催される「ジョルジェ・エネスク・フェスティバル」は、これまた豪華過ぎるオーケストラ公演の饗宴となるが、音楽祭期間がほぼ9月のことなので、詳細は次号で紹介することにしたい。(曽雌裕一・そしひろかず)(コメントできなかった注目公演も多いので本文の◎印をご参照下さい)

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