eぶらあぼ 2019.5月号
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53仲道郁代 ピアノ・リサイタルベートーヴェンと極めるピアノ道 vol.2(全10回) ~悲哀の力~“悲哀の中から立ち上がる力”を聴きとる文:伊熊よし子5/26(日)14:00 サントリーホール問 ジャパン・アーツぴあ0570-00-1212 https://www.japanarts.co.jp/ 2017年にデビュー30周年を迎えたピアニストの仲道郁代が、これを機にベートーヴェン没後200年とデビュー40周年となる2027年に向けて意義深いプロジェクトを実践している。題して「Road to 2027」。これは毎年2回、春にはベートーヴェンをメインに据え、彼と関連する作曲家の作品でプログラムを構成した「ベートーヴェンと極めるピアノ道」を行い、秋にはピアノならではの表現をインティメートに感じることができる、音響の良い小規模なホールでのリサイタルを作り上げるプロジェクトである。 昨年春の「ベートーヴェン~」シリーズでは「熱情」を中心としたプログラムだった。今回は「悲哀の力」と題し、ベートーヴェンのピアノ・ソナタ第8番「悲愴」、ブラームスの「8つの小品」、シューベルトのピアノ・ソナタ第19番が組まれている。仲道は「これらの作品には悲哀の中から立ち上がる力というものが潜んでいる。彼らの音楽に感じる強い意志、悲哀の奥底にある強い想い。それを聴いていただきたい」と語っている。 ベートーヴェンの「悲愴」は従来のピアノ・ソナタには見られなかった荘重な序奏部が特徴で、情熱と悲壮感に満ちた圧倒的なエネルギーを備えたソナタ。ブラームスの「8つの小品」は円熟期に書かれた滋味豊かな作品。全曲が演奏されることは多くないため、貴重な機会である。シューベルトのピアノ・ソナタ第19番は死の年に書かれた©Kiyotaka Saitoラトヴィア放送合唱団合唱大国発、最高峰のアンサンブルに心酔文:小室敬幸6/2(日) 15:00 すみだトリフォニーホール問 トリフォニーホールチケットセンター03-5608-1212 https://www.triphony.com/他公演 6/4(火)神奈川/フィリアホール(045-982-9999) ヨーロッパにはレベルの高いプロの合唱団が多数存在しているが、歌劇場所属の合唱団と並んでトップレベルの団体が多いのがラジオ局所属の放送合唱団である。なかでもこのラトヴィア放送合唱団は、合唱の伝統が息づく同国を代表する団体で、世界最高峰との呼び声が高い。 2年前の初来日では、どんなにハーモニーが複雑で、不協和音であろうとも、常に安定した響きと美しい音色を聴かせてくれたことが忘れ難い。極めて辛口な発言で知られるオーボエ奏者・指揮者・作曲家のハインツ・ホリガーをして、自作の演奏を任せられるのは彼らしかいないと言わしめたことからも、その実力はうかがい知れる。 2度目の来日となる今回は、まず前半に彼らの実力を最大限に感じられるラトヴィアの合唱曲が歌われる。ヴァスクス、エセンヴァルズ、カールソンスなど、一見、馴染みのない名前が並んでいるが、いずれも合唱界では世界的に評価されている作曲家ばかり。大河のように絶え間なく流れ続ける美しい響きに身を任せるだけでも、他では得難い体験となるはずだ。 後半は、佳品ながら、なかなか優れた演奏で聴く機会のないブラームスのワルツ集「愛の歌」──しかも「新・愛の歌」を含めた全曲版を聴けるというのも嬉しい。この作品は、のちにピアノ連弾曲に編曲されたことからも分かるように、合唱と同じぐらい、伴奏パート(ピアノ連弾)が重要。それだけに津田裕也、北村朋幹という実力者を揃えているのも安心だ。指揮は同合唱団音楽監督のシグヴァルズ・クラーヴァ。世界トップの合唱はこれほどまでに凄いのかと驚くことだろう。左より:シグヴァルズ・クラーヴァ ©Jānis Deinats/津田裕也 ©Christine Fiedler/北村朋幹 ©TAKUMI JUN/ラトヴィア放送合唱団 ©Jānis Deinats3曲のソナタの第1作。ベートーヴェンに対する敬愛の念が強く打ち出された作品だ。これらを仲道は各曲の魂に寄り添うよう、作品の内奥に迫る。
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