eぶらあぼ 2019.5月号
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43セバスティアン・ヴァイグレ(指揮) 読売日本交響楽団独墺の勝負曲で新時代が始まる文:柴田克彦第588回 定期演奏会 5/14(火)19:00 サントリーホール問 読響チケットセンター0570-00-4390 https://yomikyo.or.jp/ 読響の新時代が幕を開ける。この4月、ドイツの名指揮者セバスティアン・ヴァイグレが第10代常任指揮者に就任。フランスの鬼才カンブルランの後を受け、独墺文化圏に根ざす新たな視座で、読響のキャパシティを拡大させる。 ベルリン国立歌劇場管の第1ソロ・ホルン奏者から転向したヴァイグレは、バレンボイムの薫陶を受け、2008年フランクフルト歌劇場の音楽総監督に就任。同劇場はドイツの専門誌から15年と18年の最優秀歌劇場に選ばれるなど、その手腕が高く評価されている。バイロイト音楽祭やウィーン国立歌劇場ほか著名どころへの客演も多数。読響とは16年の3プログラムと17年の東京二期会《ばらの騎士》で共演し、相性の良さからシェフ就任と相成った。 就任披露となる5月の定期は、ヘンツェの「7つのボレロ」とブルックナーの交響曲第9番。ヴァイグレは「新時代の始まりには自らの出自を紹介し、独墺の音楽史に取り組む姿勢を発信したい」と話していたが、激烈なサウンドが連続する快作と天上へ向かう至高の名作の組み合わせは、とりわけ意欲的だ。しかも「7つのボレロ」は、00年カナリア諸島音楽祭において、読響がG.アルブレヒトの指揮で世界初演を行った作品、ブルックナーの第9番は、歴代シェフの尾高忠明、アルブレヒト、スクロヴァチェフスキ、カンブルランが各々のアプローチで演奏してきた、いわば根幹のレパートリー。楽団の歴史も踏まえた開幕の選曲が心憎い。思えば読響は元々独墺物が十八番。それゆえ精緻かつ豊穣な今の同楽団で聴く、ドイツ王道指揮者の音楽への期待は大きい。セバスティアン・ヴァイグレ ©読響フィリップ・ヘレヴェッヘ(指揮) 新日本フィルハーモニー交響楽団古楽の巨匠と作り上げるロマン派作品の新しい姿文:林 昌英第606回 定期演奏会 トパーズ〈トリフォニー・シリーズ〉5/31(金)19:00、6/1(土)14:00 すみだトリフォニーホール問 新日本フィル・チケットボックス03-5610-3815 https://www.njp.or.jp/ 新日本フィルは以前から、古楽や古典を得意とする名指揮者との相性がすこぶる良い。特に2000年代のゲルハルト・ボッセとフランス・ブリュッヘンというふたりの大家との共演は、古典演奏の真髄を示すものだった。近年も鈴木秀美やトン・コープマンら、古楽・古典の名匠と成果を挙げ続けている。 そしてこのたび登場するのは、古楽の世界的巨匠フィリップ・ヘレヴェッヘ。バッハをはじめとした多くの古楽や宗教曲の名録音で知られる彼は、世界トップクラスのモダン・オーケストラとも共演を重ね、20世紀作品まで手掛ける才人である。日本の団体との共演機会は稀少で、待望の好機となる。 演目はメンデルスゾーンとシューマン、初期ロマン派の巨匠の3曲。古典的な端正さと感情に訴えるロマンが両立した名品ぞろいで、ヘレヴェッヘのもと清新にして細部まで磨かれた、しなやかな演奏が実現するに違いない。特に、ベートーヴェン的な構築性に濃密な情感があふれる名作、シューマンの交響曲第2番はこれまでのイメージを刷新するような名演の期待大。彼が作り上げる、ヴィブラートを抑えた澄んだ響きは、新日本フィルにとっても長年培ってきた奏法であり、同楽団の面目躍如となる演奏会になりそうだ。 演奏会冒頭を飾るのはメンデルスゾーンの序曲「フィンガルの洞窟」。仲道郁代がソリストを務めるシューマンのピアノ協奏曲も注目だ。彼女にとってシューマンは要所で演奏してきた大切な作曲家。近年はフォルテピアノでの演奏でも第一線を走るなど円熟味を増す仲道が、ヘレヴェッヘとの共演で新たなシューマン像を創出する。仲道郁代 ©Kiyotaka Saitoフィリップ・ヘレヴェッヘ ©Michiel Hendryckx

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