eぶらあぼ 2019.4月号
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78©大杉隼平伊藤 恵 ピアノ・リサイタル春をはこぶコンサート ふたたび 「ベートーヴェンの作品を中心に」Vol.24/29(月・祝)14:00 紀尾井ホール問 カジモト・イープラス0570-06-9960 http://www.kajimotomusic.com/伊藤 恵(ピアノ)円熟の時を迎え、今ベートーヴェンの後期ソナタと向き合う取材・文:宮本 明Interview 20年かけてシューマンのピアノ曲全曲を弾き、さらにそのあと約10年間シューベルトに取り組んできた伊藤恵が、現在あらためて向き合っているのがベートーヴェンのピアノ・ソナタだ。CDのリリースと並行して、昨年からベートーヴェンを中心とする年1回のリサイタル・シリーズ「春をはこぶコンサート ふたたび」(全8回)を始動。4月、シリーズ第2回は、「ピアノ・ソナタ第30番 op.109」と、「第32番 op.111」の後期ソナタ2曲が軸となる。 「ベートーヴェンが亡くなった年齢を超えて、ようやくベートーヴェンを弾くことが許されるかなと思ってスタートしました。私も人生の秋から冬をどう過ごすかということは大きな課題。今回は、いままでできなかったことに挑戦したいと思い、人前で弾くのはほぼ初めてのop.111を選びました」 このベートーヴェン最後のソナタを、愛と優しさだと語る。 「第2楽章の静かな美しさ。不屈の人だと思い込んでいたベートーヴェンの『諦念』を、初めて感じています。『もうこれでいいんだ』という諦めと、すべてを受け入れる愛。弾いている私にも『それでいいんだよ』と肯定してくれる優しさがある。生きていくことの大変さを受け入れる勇気をくれる音楽です」 対照的に、op.109は18歳の頃から何度も弾いてきた。 「面白いことに、長い間弾いている作品を、現在の自分の新しい解釈にするのは難しいんですね。過去をまったく否定してしまうのもちょっと残念だけれど、いや、でも本当にそれでいいのか? という迷いと葛藤。自分との戦いですね。直観的な若い感性と、もっと深い表現のための感性とを、両方持っていくというのは、なかなか大変なことです」 年齢と経験を重ね、その両方を考えることができる現在の伊藤だからこその、深く変化に富んだ表現が紡がれるはずだ。 そのベートーヴェンと組み合わせたのは「音楽が大好きだった父が常に口ずさんでいた、個人的に特別な曲」というブラームスの「3つの間奏曲 op.117」。ライフワークとする作曲家シューマンの〈予言の鳥〉(森の情景)は、「現代のピアノ、未来の音を予言したかのようなベートーヴェン」へのオマージュでもある。そして「まるでドイツ音楽。精神的で、娯楽性のかけらもない。ベートーヴェンと対峙するのと似た感覚」と敬愛する細川俊夫の小品「エチュードⅥ -歌、リート-」。 音楽の性格的な調和はもちろん、変ホ長調のブラームスからハ短調のop.111まで、調性の移ろいも加味した、巧みなプログラムだ。Hakuju サロン・コンサート vol.2 熊本マリ(ピアノ) スペインの熱い夜スペインにまつわる美しき小品を集めて文:長井進之介 マドリード音楽院、米ジュリアード音楽院、英国王立音楽院などで学び、2016年にデビュー30周年を迎えたピアニストの熊本マリ。国際的なピアニストとして活躍する他、明るいキャラクターや軽妙なトークでも人気だ。幅広いレパートリーをもち、様々な分野の著名人とのコラボレーションなど、多彩な活動を行っており、彼女のコンサートは常に多くの注目を集めている。 そんな熊本が「Hakuju サロン・コンサート」シリーズに登場。「スペインの熱い夜」と題し、彼女が幼少期を過ごし、アイデンティティの確立に重要な5/15(水)19:00 Hakuju Hall問 Hakuju Hallチケットセンター03-5478-8700 https://www.hakujuhall.jp/©Shimokoshi Haruki/衣装提供:ヒロココシノ役割を果した、スペインの空気を存分に感じることのできるプログラムを披露する。アルベニスやグラナドスなどの作品はもちろん、ピアノ曲全集を初めて完成させ、日本にモンポウの名を広く紹介してきた熊本が奏でるモンポウの作品には、特に注目したいところ。輝かしい音色と情熱的な音楽づくりによって紡ぎ出される演奏は、スペイン音楽の魅力を存分に伝えてくれるはずだ。

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