eぶらあぼ 2019.4月号
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44横山幸雄Yukio Yokoyama/ピアノショパン全240曲! 作曲家の全貌に迫るビッグチャレンジ取材・文:伊熊よし子 横山幸雄はショパン国際ピアノコンクール入賞後から現在にいたるまで、一貫してショパンの作品を弾き続けている。2010年のショパン生誕200年のメモリアル・イヤーには、「入魂のショパン」と題したピアノ・ソロ作品の全曲演奏(166曲)を実施、以降も同シリーズの公演を9回にわたり行い、今年は第10回を迎える。 「僕はショパン・コンクールに参加する前から、このコンクールの優勝者や入賞者がそれ以後ずっとショパンを要求されてショパンばかり演奏するため、“もうあまり弾きたくない”とか“同じ曲ばかり弾いて飽きた”という声を聞き、不思議に思っていました。僕の場合は、ショパンの作品を何度弾いてもけっして飽きることはなく、より深いところまで知りたくなる。それゆえ、ショパンの作品全体を知らなくてはショパンに対して何か発言することはできないと考え、全曲を演奏する決意をしました。20代前半からそれを始め、何年もかけてさまざまなスタイルで全曲を演奏するリサイタルを行ってきました。今年は2010年から始めたシリーズが10回目を迎えるため、この際3日間に分けてオーケストラと共演し、声楽作品や室内楽曲を入れて全240曲を演奏するコンサートを計画しました」 5月3日から5日のゴールデンウィーク期間中に東京オペラシティ コンサートホールで開催されるこのシリーズ、横山のビッグチャレンジに共鳴する音楽家が集結し、ふだんあまり演奏される機会のない作品にも光が当てられ、貴重な作品も登場する。 「そう、まさに僕は貴重なことをやっていると思っていますから(笑)。プログラムはほぼ時系列に並べ、ショパンの若き時代から最晩年までの作品を順番に聴いていくことができます。もっとも貴重だと思うのは、ショパンがピアノ協奏曲第1番、第2番よりも前に書いたオーケストラとピアノの作品を演奏することです。ワルシャワ時代にまだ無名だったショパンは、「《ドン・ジョヴァンニ》の〈お手をどうぞ〉の主題による変奏曲」「ポーランドの民謡の主題による幻想曲」「演奏会用ロンド『クラコヴィアク』」でモーツァルトに対する敬意、ポーランド民謡への思い、そして祖国の舞曲への愛情を表現し、オーケストラとピアノが共演する技巧的に難易度の高い作品を書いています。これらの作品は、若きショパンが自分はこんなこともできるんだと誇示するために背伸びして書いた感じがよく伝わります。自分の技量、才能、名前を知ってほしいという願いの表れですね。パリに移ってからのショパンはそうした気持ちは薄れ、聴きたい人が聴いてくれればいいという思いになっていきましたから、曲想も変わってきます」 横山は、ショパンの心情、人生観が年齢を重ねることによって変容していく様子までよく知り尽くしているという。 「あの時代はコピー機もありませんし、録音もできないため、ショパンは楽譜を出版社に送ってしまったら手元には何も残らない。当然、昔書いた作品は少しずつ忘れていく。僕は作曲もするため、その気持ちがよくわかるのです。こうしてショパンの作品を全曲演奏し、じっくり作品と向き合っていくと、ショパン自身よりもショパンのことをよく知っているという気持ちになってくる(笑)。もちろん聴き慣れた作品も多いのですが、声楽作品などはショパンの素の要素が表現され、素朴で親密で温かい。室内楽はショパンが貴族に捧げた曲や、チェロの名手フランショームのために書いたソナタなどがあり、その時代とショパンの人生を蘇らせます。“曲で聴くドキュメンタリー”といったところでしょうか」 最後に横山が語ったことば、これが今回の全曲演奏会を端的に表現している。 「今回の240曲すべてにピアノが入っています。他の作曲家ではありえませんね。ショパンの作品はやはりピアノのために書かれている。ですから、3日間僕には休みはありません。そのピアノの醍醐味を味わってほしいと思います」
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