eぶらあぼ 2019.4月号
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196クラシックと助成金の関係(後編) さて、ベルリン音楽界の経済面の優等生は、言うまでもなくベルリン・フィルである。同楽団では、2016年度に計128公演を行い、平均稼働率(客席が埋まっている率)は91パーセント。総収入は、2,929万ユーロであった(チケット売上、ツアー収入、スポンサー、寄付の総計)。総支出は4,789万ユーロで、補助金は1,756万ユーロに当たるが、これは自主収入率が63.6パーセントであることを意味する。業界人ならすぐにピンとくるだろうが、想像を絶する数値である。こんなに経済面がうまく行っているオケは、他のどこにも存在しないだろう。 ベルリン・フィルがどれほど“健康優良児”であるかは、条件が似たベルリン・コンツェルトハウスと比較すると分かりやすい。こちらもホールを有し、自前のオケだけでなく、室内楽をはじめとする付随公演も多数行っている。その総数は328公演で、平均稼働率は76パーセント。総収入808万ユーロ、総支出2,489万ユーロとなり、補助金は1,642万ユーロを占める。自主収入率は、33.7パーセントである。 しかし実際には、コンツェルトハウスの方が普通であり、筆者はこのホールはうまくいっていると思う。なぜなら、ベルリン・フィルは年間128公演で、総支出は4,789万ユーロである。これに対し、コンツェルトハウスは年間328公演で、総支出が2,489万ユーロとなる。つまり公演数が2.5倍なのに、経費は半分。1公演に掛かっている単価が、ずっと安いのである。もちろん小ホール公演も多いので、詳細な分析が必要だが、「バラエティに富んだプログラムが数多く提供されている」とは言えるだろう。 これに対して“問題児”は、放送局所属のオケ、合唱団である(ベルリン・ドイツ響、ベルリン放送響、RIAS室内合唱団、ベルリン放送合唱団)。こちらは、Profile城所孝吉(きどころ たかよし)1970年生まれ。早稲田大学第一文学部独文専修卒。90年代よりドイツ・ベルリンを拠点に音楽評論家として活躍し、『音楽の友』、『レコード芸術』等の雑誌・新聞で執筆する。近年は、音楽関係のコーディネーター、パブリシストとしても活動。総公演数は4団体で計214回、平均稼働率76パーセント、総収入803万ユーロとなる。4,316万ユーロの総支出に対し、補助金は3,161万ユーロとなり、自主収入率は、18.7パーセントに過ぎない。これは、「公演数が少ないのに満席にはならず、経費だけは掛かっている」という意味。そして経費の大半は、人件費である(3,028万ユーロ)。オケふたつ、合唱団ふたつで、それぞれに事務局があるのだから、当たり前だろう。「公演数が少ない」とは、ベルリン・ドイツ響の場合、オケ公演は月に平均2プログラム計3〜5公演しかない、ということ。ベルリン・フィルが、最大4プログラム16公演行っているのとは、大違いである。 合唱団は、どのオケでも必要なので(公演自体は少なくても)地元に存在する意義はあると思うが、ふたつの放送オケが不可欠であるかは疑問だ。ベルリン・ドイツ響は、この2月に首席指揮者ロビン・ティチアーティとブラームス交響曲全曲ツィクルスを行い、4プロ1回ずつの演奏会が、どれも売り切れになっていなかった。シェフがブラームスを指揮して満席にならない、というのは問題だが、それでも潤沢な助成金を受け、経営としては成り立ってしまう、という現実には、何か腑に落ちないものを感じてしまう。城所孝吉 No.33連載
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