eぶらあぼ 2019.3月号
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197い。いま世界で活躍している人たちは、天才的な直感と様々な体験、そして気の遠くなるほどの研鑽の結果、自力で身につけてきたのである。そのため若いダンサーは、面白い動きを作るのは得意でも、長さのある作品で壁にぶちあたる。まあ稀に初振付作品から驚異的な作品構築力を発揮するモンスターもいるけれどもね。 そこで問題意識を持った人たちが、ダンスに対して動き以外からのアプローチをしようと「実験的なワークショップや創作」をしたりするのだが、ほとんどが研究者目線の頭でっかちなもの。同好の士が集まって「いいね、うん、わかる」と言っているだけで閉じてしまう。 つまり、ダンサー達を魅了しないのだ。 ただ最近は世界的に活躍し、海外の作品創りを骨の髄までわかっているダンサー達が振付ワークショップを立ち上げたりしているので、大いに期待したい(本当は国が予算を組んでやるべきことなんだが)。 1月、2月は若手の作品を観るイベントも多い。しかし「うまくて楽しくまとまっているけれど、今後も手を替え品を替えやっていくであろう、うっすらとした枠のようなもの」が見えることも少なくない。しかしそういう「枠」を突破する者こそが、次に何をしでかすかと観客を惹きつけ、応援したくなり、生き残っていけるのだ。オレも評論の立場から、できることをやっていくつもりである。第53回 「逸脱せよ! 身体と、そして頭脳を使って」 ダンス界の賞は多々あれど、ジャグラーが受賞したのはおそらく史上初だろう……というのが昨年12月に発表された第7回エルスール財団新人賞(コンテンポラリー・ダンス部門)。この賞は「各部門の選考委員は基本一人」というユニークなもので、だからこそ思い切ったことができる。オレが選んだのは、ジャグリングの渡邉尚だった。 現代サーカスは世界の舞台芸術で最も熱い分野なのだが、渡邉は日本のジャグリング界からもダンス界からも「お前は違う」と言われ続けてきたという。内面に抱える表現世界が巨大なアーティストは、いつのまにか作品が領域を逸脱してしまうのだろう。渡邉は3年前にほぼなんのツテもなくフランスに渡り、ときに野宿をしながらフェスやイベントに出演。わずか半年で世界中のサーカスやダンスのフェスから招かれる超売れっ子になった。渡邉の通訳や制作をしている儀保桜子さんは、若い女性の身ながら、一緒に極寒のパリで野宿までしているというガッツのある人である。 さて「領域横断的な作品」には、身体性のみならずコンセプチュアルな方向もある。コンテンポラリー・ダンスはその歴史の中で、もはや「ノンダンス」というスタイルまで経てきている。踊らないどころか、歩いているだけ、歌っているだけ、全裸でバスタブに浸っているだけ、というものを「ダンス作品」と提示されても、もう驚きはしない。しかしね、重要なのは「どんなにコンセプチュアルな作品であっても、演者であるダンサーの身体性にコミットしていない作品は、口先だけの薄っぺらい作品に見える」ということだ。昔はアイディア一発みたいなものでも良かったが、いまでは通用しないのである。 海外ではダンスを動きとコンセプト(理論、哲学といってもいい)の両面から立ち上げていくことで、ダンス作品の強度を高めているのだが、日本は公教育も含め、創作についての突き詰めた教育は、ほぼなProleのりこしたかお/作家・ヤサぐれ舞踊評論家。『コンテンポラリー・ダンス徹底ガイドHYPER』『ダンス・バイブル』など日本で最も多くコンテンポラリー・ダンスの本を出版している。うまい酒と良いダンスのため世界を巡る。http://www.nori54.com/乗越たかお
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