eぶらあぼ 2019.2月号
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54マルセロ・アルバレス(テノール) スペシャル・コンサート&リサイタル力強く劇的なのに美しい歌を聴かせる稀有なテノール文:香原斗志2/7(木)19:00 東京オペラシティ コンサートホール(テイト・チケットセンター03-6379-3144)、2/10(日)17:00 愛知県芸術劇場 コンサートホール(中京テレビ事業052-588-4477)、2/13(水)18:30 大阪/フェスティバルホール(フォルテ音楽事務所06-6375-7431) 2011年、東日本大震災直後で歌手のキャンセルが相次いだボローニャ歌劇場公演で、急遽代役として《カルメン》に出演、すばらしいドン・ホセを歌って日本人に勇気を与えてくれたマルセロ・アルバレス。待ち望まれた来日が8年ぶりに実現する。筆者がアルバレスを初めて聴いたのは1997年、ジェノヴァでの《リゴレット》で、艶と輝きがある若々しい美声と端正な表現が強く印象に残った。 当初はベルカント・オペラやフランスの抒情的作品で存在感を示し、来日も何度か重ねたが、2000年代半ばごろからドラマティックな役柄へとレパートリーを移した。これは声を失うリスクも伴う危険な道だが、アルバレスほどこの転換に成功したテノールを筆者は知らない。劇的に響くようになった声には、いまも艶やかな色彩や輝きが同居し、かつ柔軟なのだ。そんな声をもてたのは天性の資質に加え、知性と努力の賜物だろう。インタビューする機会があり、その際に、医師の助言に耳を傾け、慎重にレパートリーを選んでいること、歌へのアプローチは相変わらずベルカントで、時間をかけてフレージングを磨いていることを強調した。 それだけに、オーケストラ(カメル・カハーン指揮東京ニューシティ管弦楽団)のもと(大阪はカハーンのピアノ伴奏)、アルバレスが《ル・シッド》の〈おお、裁きの神〉や《道化師》の〈衣装をつけろ〉、《トゥーランドット》の〈誰も寝てはならぬ〉といったドラマティックなアリアの数々を歌うのを聴けるのは、本当に楽しみだ。力強く圧倒的な響きなのに美しい――。そんな、天が二物を与えたようなテノールは、ほかに見当たらないから。トウキョウ・ミタカ・フィルハーモニア 第78回定期演奏会いま最も旬な二人の歌手を迎えてのモーツァルト三昧の午後文:宮本 明3/9(土)15:00 三鷹市芸術文化センター問 三鷹市スポーツと文化財団0422-47-5122 http://mitaka-sportsandculture.or.jp/ トウキョウ・ミタカ・フィルハーモニアは、1995年の三鷹市芸術文化センター開館時に、地元出身の指揮者・沼尻竜典が呼びかけて同ホールを拠点にスタートしたトウキョウ・モーツァルトプレーヤーズが、創立20周年を機に改称、2016年から現称で活動している(どちらも「TMP」)。メンバーは国内外のオーケストラやソロで活躍する日本人奏者たち。本誌読者のような熱心なクラシック・ファンにはおなじみの顔と名前が並ぶ豪華布陣だ。名称が変わっても、モーツァルトはレパートリーの一定の軸。3月に行われる第78回定期演奏会も「ほぼモーツァルト」だ。軽快な「ディヴェルティメント K.138」で幕を開けると、前半は、海外でも大注目を浴びている、中村恵理(ソプラノ)と藤木大地(カウンターテナー)、二人の旬の歌手を迎えてオペラ・アリアやデュエットをたっぷり楽しめるプログラムが組まれた。発表されている曲目は、《フィガロの結婚》《ドン・ジョヴァンニ》《皇帝ティートの慈悲》《イドメネオ》などやはりモーツァルトが中心(藤木の〈オンブラ・マイ・フ〉も)。日本人歌手としては貴重な、声の密度の濃い、ボディのしっかりしたリリコの持ち主の中村と、声の安定感や歌の「上手さ」がずば抜けている藤木。ただ美しいだけではない、二人の豊かな表現の共演を堪能したい。プログラム後半はモーツァルトの交響曲第41番「ジュピター」。指揮はもちろん音楽監督の沼尻竜典。中村恵理 ©Chris Gloag藤木大地 ©hiromasa沼尻竜典

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