eぶらあぼ 2018.12月号
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75ジョナサン・ノット(指揮) 東京交響楽団巨大かつ精密な作品をダイレクトに体感する文:江藤光紀第666回定期演奏会 12/15(土)18:00 サントリーホール名曲全集 第143回〈後期〉 12/16(日)14:00 ミューザ川崎シンフォニーホール問 TOKYO SYMPHONY チケットセンター044-520-1511 http://tokyosymphony.jp/ 東響12月のサントリー定期&川崎名曲全集は、ジョナサン・ノットらしいトリッキーなプログラミングだ。 前半はフランス印象主義から出発しつつ、渡米後は超硬派な作風に転じ、戦後の前衛を先取りしたエドガー・ヴァレーズの2曲。まずフルートの材質であるプラチナの比重をタイトルにした独奏曲「密度21.5」を東響首席・甲藤さちのソロで。この曲は、キーをパタパタ鳴らす音や、およそ美音とはいえない超高音域の使用など、現在はポピュラーになっている奏法を用い、フルートの概念を拡張したことで知られる。続く「アメリカ」もアルト・フルートの呪術的な主題で始まるが、そのテーマは夜のしじまを破る禍々しいサイレンの音と共に5管編成の巨大なオーケストラへと瞬く間に燃え広がる。打楽器アンサンブルが都会の喧騒を呼び起こし、強烈な不協和音が次々に炸裂する様は、ぶつかりあう起重機、蒸気を噴き上げる溶鉱炉のように壮観かつ非情だ。 前半を戦後音楽の先駆と位置付けるなら、1899年に初演されたR.シュトラウスの「英雄の生涯」は19世紀音楽の総決算となろうか。こちらも4管編成のオケが縦横無尽に絡まり合い、愛、戦い、回想、死というドラマを活写していく。所々で聴かれるチャーミングなヴァイオリン・ソロも、ハード・ボイルドな前半のフルート・ソロと対比的だ。 ノットは現代もののスペシャリストとしても知られるし、最近の東響は音楽を緻密に仕上げる力に一層の磨きがかかっている。巨大で複雑な作品をすっきりと聴かせることにかけて、これ以上のコンビはないのではないか。甲藤さち葵トリオ(ピアノ三重奏)ミュンヘン国際音楽コンクールピアノ三重奏部門第1位記念 凱旋リサイタル世界に羽ばたく3人組が早くもサントリーホールに登場文:山田治生12/14(金)19:00 サントリーホール ブルーローズ(小)問 サントリーホールチケットセンター0570-55-0017 http://suntory.jp/HALL/ 今年の9月に開催されたミュンヘン国際音楽コンクールで第1位を獲得した葵トリオが12月14日にサントリーホールのブルーローズ(小ホール)で「凱旋リサイタル」を開く。世界的に最難関のコンクールの一つとして知られる同コンクールのピアノ三重奏部門で日本人団体が第1位となったのは史上初。室内楽の分野では、東京クヮルテット以来、48年ぶりの優勝であった。 葵トリオは、ヴァイオリンの小川響子、チェロの伊東裕、ピアノの秋元孝介の3人によって、2016年に結成された(『葵』の名称は3人の名字の頭文字“aoi”から取られている)。3人は全員、東京藝術大学出身であり、2014年から16年にかけてサントリーホール室内楽アカデミーの3期生としてともに研鑽を積んでいた。小川は12年の東京音楽コンクールで第1位を獲得し、現在、ベルリン・フィルのカラヤン・アカデミーに在籍。伊東は08年の日本音楽コンクールで第1位。秋元はロザリオ・マルシアーノ国際ピアノコンクールで第2位に入賞している。ソリストとしても活躍する3人だが、コンクールではその室内楽的なアンサンブルが高く評価された。 今回のリサイタルでは、ミュンヘン国際音楽コンクールのファイナルで演奏したシューベルトのピアノ三重奏曲第2番をメインに、ハイドンの第27番ハ長調、ブラームスの第1番が披露される。サントリーホール室内楽アカデミーでともに学んだ3人がサントリーホールに帰ってくるこのリサイタルが待ち遠しい。ジョナサン・ノット ©K.Miura
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