eぶらあぼ 2018.12月号
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49 指揮界のトップに立つイタリアの巨匠リッカルド・ムーティが、第30回高松宮殿下記念世界文化賞の授賞式のため来日した。これは5つの芸術分野から毎年各1名が選ばれる権威ある賞だ。 「天皇・皇后両陛下とお会いできたことを大変光栄に思っています。両陛下が、最近の私の活動である若い人たちの教育と、今後3年間日本でも指導にあたることをご存じだったのにはとても感動致しました。私は1975年以来何度も来日し、様々な団体と約150回の公演を行ってきました。また日本の合唱団とも共演してその力量、特に児童合唱団の高度な教育に感心しました。今回の名誉ある受賞によって、私が愛情をもって日本と接してきたことを認めていただけたと思っています」 直近の来日は来年1月のシカゴ交響楽団日本公演。彼はこの名楽団の音楽監督を2010年から務めている。 「シカゴ響は、創設者のセオドア・トーマスも、次に長く音楽監督を務めたフレデリック・ストックもドイツ人でしたので、本来ドイツのオケと同じ性格をもち、その音を維持しながら成長してきました。私はそれを失わずにイタリア風の音色を加えていこうと考えました。もちろん各セクションのバランスも重要。シカゴ響といえば長い間金管が有名で、その素晴らしさは不変ですが、今は木管も弦もいい音色を作り出しています。おかげでヴェルディの『レクイエム』の録音はグラミー賞を2つもいただき、『オテロ』も英国の賞で1位に輝きました」 日本公演のプログラムは、ブラームスの交響曲第1番&第2番、リムスキー=コルサコフの「シェエラザード」&チャイコフスキーの交響曲第5番、ヴェルディ「レクイエム」の3種類。 「ブラームスの2曲は、全交響曲の中でも重要な位置を占めていると思うがゆえの選曲で、ロシアものはシカゴ響のクオリティを聴いていただくのに最適な演目。こうした一般的な名作であっても、何かしら意義のある曲を選ぶのが大事です。またヴェルディの『レクイエム』は、日本の合唱団に参加してもらおうと考えて選びました」Informationリッカルド・ムーティ(指揮)シカゴ交響楽団 2019年日本公演〈プログラム A〉 2019.1/30(水)19:00 曲/ブラームス:交響曲第1番・第2番〈プログラム B〉 2019.2/ 3 (日)14:00(完売) 曲/リムスキー=コルサコフ:交響組曲「シェエラザード」、チャイコフスキー:交響曲第5番〈オペラ・フェスティバル特別プロ〉 2019.1/31(木)19:00、2/2(土)14:00 ヴェルディ:レクイエム東京文化会館 問 NBSチケットセンター03-3791-8888 http://www.nbs.or.jp/東京・春・音楽祭 2019 イタリア・オペラ・アカデミー in 東京 vol.1 《リゴレット》(演奏会形式/抜粋上演)リッカルド・ムーティ(指揮) 東京春祭特別オーケストラ 他 2019.4/4(木)19:00 東京文化会館問 東京・春・音楽祭チケットサービス03-6743-1398 http://www.tokyo-harusai.com/リッカルド・ムーティ「イタリア・オペラ・アカデミー in 東京」 vol.1 開催期間:2019.3/28(木)~4/4(木)リッカルド・ムーティによる《リゴレット》作品解説 2019.3/28(木)19:00 東京文化会館※詳細は上記ウェブサイトでご確認ください。 ブラームス・プロでは同楽団の“ドイツ的な性格”、ロシア・プロでは名技性を堪能できるし、ヴェルディ「レクイエム」は究極の十八番演目。豪華ソリストおよびムーティとの共演を重ねている東京オペラシンガーズが揃った声楽陣への期待も大きい。 次いで3〜4月には、「東京・春・音楽祭」にて「イタリア・オペラ・アカデミー in 東京」が開催される。これは、2015年からイタリアのラヴェンナで行われているプロジェクトの日本版。オーディションで選ばれた指揮受講生と、若手奏者を中心とした東京春祭特別オーケストラおよびソリストを、1週間にわたってムーティが指導し、最後に彼の指揮でコンサートを行う。また過程は全て聴講生(募集)に公開される。 「私は、古典的な教育法で学び、ヴェルディの指揮を知るトスカニーニの一番のアシスタントだった先生から、イタリアの伝統の秘密を教えてもらったと思っています。ですから特にオペラに関して、過去にそうした大事なエレメント(素材)やメソッドがあったことを、若い人たちに伝えたい。例えば歌手たちを指導し完成させていくこと。そしてイタリア・オペラでは、装飾や強弱や和音など全てが言葉と密接に関わっていることを理解してほしい。こうしたことを教えるのは、私の義務であると考えています」 題材は、1年目が《リゴレット》、以降《マクベス》《仮面舞踏会》と、全てヴェルディのオペラだ。 「ヴェルディは、愛や苦しみなど人間の感情を表している特別な存在です。しかし“非常に”悪い演奏が多い作曲家でもあります。イタリアの表面的な要素だけをなぞったり、楽譜にない超高音を歌ったり、楽譜をカットしたり…。ヴェルディは『演奏者は作曲者の意図を表現する下僕であるべきだ』と述べています。絵画等は人が見て判断しますが、音楽は演奏者の表現を聴いて判断するわけですから、勝手に変えれば、正しい姿が伝わりません。この状況と長年闘ってきた私は、真の姿を若い音楽家に伝えたいと思います」 世界的巨匠の経験と熱意を反映したコンサートとアカデミー。いずれも目を離すことができない。
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