eぶらあぼ 2018.12月号
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47取材・文:乗越たかお井上道義(総監督・指揮)ニュージーランド響首席客演指揮者、大阪フィル首席指揮者、新日本フィル、京都市響、オーケストラ・アンサンブル金沢音楽監督を歴任。1998年フランス政府芸術文化勲章。2016年渡邊曉雄基金特別賞、東燃ゼネラル音楽賞。18年大阪文化賞大阪文化祭賞音楽クリティック・クラブ賞など受賞。オフィシャルサイト http://www.michiyoshi-inoue.com/Prole森山開次(演出・振付)2001年エディンバラフェスティバルにて「今年最も才能あるダンサーの一人」と評された後、演出・振付・出演するダンス作品の発表を開始。『YU-ZURU 夕鶴』『KATANA』など独自の表現世界で注目を集める。07年ヴェネチアビエンナーレ招聘。12年『曼荼羅の宇宙』にて芸術選奨文部科学大臣新人賞など受賞。オフィシャルサイト http://kaijimoriyama.com/音楽とダンスで描く“地獄に落ちても悔いない男” 指揮は勿論のこと、演出にも精力的な井上道義。全国共同制作プロジェクトとして、野田秀樹と組んだ《フィガロの結婚》に続き今回挑むのはオペラ《ドン・ジョヴァンニ》である。いま多方面に活躍中のダンサー・振付家であり、演出家としても進境著しい森山開次を迎えての顔合わせだ。これが初の協働だそうだが、どのような出会いだったのか。 森山「井上さんがオーケストラ・アンサンブル金沢の音楽監督をしていらした頃、僕はその隣の石川県立音楽堂内の邦楽ホールで、邦楽の若手の方とのコラボレーション作品を作っていました。そのいくつかを井上さんは見てくださっていて」 井上「僕は子どもの頃から、音楽よりもダンスの方が好きでしたからね(笑)。僕の指揮は単に拍子を取っているわけじゃなく、音楽の表情を全身で表現して、奏者が感じてくれるように振っています。音楽は耳だけで感じるものではなく、観客も演奏する姿や歌手が登場する姿、あらゆるものを見ていますから。森山さんの作品は『サーカス』や『不思議の国のアリス』など近作も拝見していますがイメージ豊かで、老若男女、素人受けも玄人受けもする懐の深さがあり、大いに楽しみですね」 ドン・ジョヴァンニは「女性を渡り歩き、好きなことをやり尽くして、地獄に落ちても後悔しない」という男である。現代の観客に対してどう描くのだろうか。 森山「いまも様々な演出プランが頭の中を駆け巡っているのですが、あらためて『これは女性の話だな』と思っています。『女性に対する飽くなき興味』は永遠のテーマです。チラシに大きく取り上げた三人の女性(ドンナ・アンナ、ドンナ・エルヴィーラ、ツェルリーナ)は年代もキャラクターも違うので、必ず誰かに共感しながら見られると思いますよ」 ドン・ジョヴァンニが地獄に引きずり込まれるクライマックスシーンは、どのように表現されるのだろう。 森山「じつは最初に自分の中でザワッと浮かんだイメージは『女性の胎内でドン・ジョヴァンニが歌い踊っている』というものだったんです。女性を弄んでいるようでいて、じつは女性という存在に最も囚われているのは彼の方なのではないか」 井上「原作で地獄に引き込むのは騎士長ですが、本当に地獄に引き込むのは過去の女たちなのかもしれませんよ(笑)」 森山「今回は10人の優れた女性ダンサーを選んでいるので、最後のシーンでもダンスを効果的に使いたいですね」 今回の挑戦はもう一つある。歌詞が、全て日本語なのである。 井上「しかも今回は日本語が堪能なロシア人歌手が、日本語で歌ってくれるんです。いまはそういう新しい時代なんですよ。ヨーロッパでは自国語で上演するオペラハウスは珍しくないですからね。意味が伝わりやすく字幕に邪魔されず、舞台に集中できる。もちろん歌詞が音楽的にもしっかり乗るように、私が三十代で上演したときのテキストをさらに磨き上げています」 森山「じつは僕が舞台芸術に入るキッカケとなった日本のミュージカル団体で、初めて踊った役がドン・ジョヴァンニなんです。縁を感じますね(笑)」 井上「モーツァルトは三十代で亡くなりましたが、《ドン・ジョヴァンニ》のような作品は、若くて血湧き肉躍る衝動が呼び合うのかもしれませんね(笑)。だから今回も、若い人と一緒にやりたかった。僕には思いもつかない発想、口先だけのコラボレーションではないものが、森山さんとならできると確信しています」 森山「僕は全体に様々な要素を身体性に置き換えて考えています。血が出るとしたら、それはどう流れて、どう広がっていくのか。彼なりの愛とはなにか…。周りはオペラに関して僕よりも詳しい方ばかりですが、僕ならではの解釈と身体性あふれるオペラをお見せしたいと思っています」 井上「アジアの舞台芸術は、いま若い才能がすさまじい勢いで伸びています。日本も、若い才能に投資しないとダメですよ。それはお金じゃなくて、チャンスを与えることです。若い人もどんどん飛び込んできて欲しい。『表層的な新しさ』ではなく、本当の新しい価値の創造であれば、オペラにタブーはありません。ドン・ジョヴァンニだって、やりたい放題やった男なんだから(笑)」
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