eぶらあぼ 2018.10月号
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62日本演奏活動5周年記念 CD第3弾『日本歌曲名曲集』発売記念ヴィタリ・ユシュマノフ 魅惑のバリトン・リサイタルロシアから来た俊英が世界の様々な歌を情熱的に歌う文:岸 純信(オペラ研究家)10/28(日)14:00 東京文化会館(小)問 サンライズプロモーション東京0570-00-3337 http://miy-com.co.jp/ ロシアの帝都サンクトペテルブルク生まれのバリトン、ヴィタリ・ユシュマノフは、日本と日本の人々が大好きで我が国に在住しているという。筆者が彼の声を初めて聴いたのはちょうど2年前。東京音楽コンクール声楽部門の本選に出場する雄姿を、客席で目の当たりにしたのである。 内なる情熱をそう簡単に表には出さないロシアの芸術家。しかし、ユシュマノフの重めの響きは、イタリア・オペラのドラマティックな旋律美を、並々ならぬ勢いで描き上げていた。顔立ちは端正なのに、頬を染める血液の量は尋常ならざるもの。“赤々と燃える炎”を声でも面差しでも表現する彼なら、日本のオペラ界に良い刺激をもたらすはず──そう確信したのである。 この10月、日本での演奏活動開始から5周年の節目に、そのユシュマノフがリサイタルを開く。しかも、今回は新しいCD『日本歌曲名曲集』(オクタヴィア・レコード)の発売も記念してのコンサートになるとのこと。まずは、瀧廉太郎や平井康三郎が音に映した“日本語特有の淡い響き”を、彼の重厚な声音がどのように造形するか、多くの声楽ファンに注目してもらいたい。また、レオンカヴァッロやジョルダーノのオペラ・アリア、シューベルトやトスティ、それにラフマニノフの歌曲など、様々な言語による名旋律も期待大である。ピアノの塚田佳男と山田剛史の知的なサポートを得て、ユシュマノフの濃密な歌いぶりが、“情熱と理性がせめぎ合うステージ”へと変化する瞬間に、耳をそばだててみたい。©Masaaki Hiragaヤノシュ・オレイニチャク ピアノ・リサイタルポーランドの伝統が息づくショパンの調べ文:飯田有抄11/3(土・祝)豊中市立文化芸術センター(06-6864-5000)、11/4(日)岡崎市シビックセンター(0564-72-5111)、11/6(火)代官山ヒルサイド プラザホール(03-5489-3705)、11/7(水)横浜/フィリアホール(045-982-9999)、11/9(金)静岡/グランシップ(中)(テレビ静岡事業部054-261-7011)、11/10(土)白河文化交流館コミネス(0248-23-5300)、11/11(日)つくば/ノバホール(029-856-7007)問 欧州日本藝術財団 http://www.ejfa.jp/ 映画『戦場のピアニスト』(2002年 監督:ロマン・ポランスキー)は、第二次世界大戦のさなかを生き抜くピアニストを描いた傑作だ。この作品で流れるすべてのピアノ音楽を演奏し、重要シーンで迫真の「手」の演技をしたのが、現代ポーランドを代表するピアニスト、ヤノシュ・オレイニチャクである。昨年の来日公演のチケットは各所で完売。スタンディング・オベーションを巻き起こした彼が、今年も日本ツアーを行う。 ショパンはポーランドにとって「20世紀の二つの世界大戦の廃墟から祖国が立ち上がるために、大いなる勇気と希望を与えてくれた存在」とオレイニチャクは語る。一方で、ショパンの音楽は「ポーランド人だけが理解できるものでもなければ、ポーランド人だけが表現できるものでもない」と、その国際的に広く愛される魅力について述べる。権威あるショパン国際ピアノ・コンクールの常連審査員であり、ワルシャワ国立ショパン音楽院教授として、ショパンの伝統を次世代へと繋ぐ存在であるからこそ、彼の言葉は深い。 7ヵ所を巡る今回のツアーでは、「軍隊ポロネーズ」「バラード第1番」などの名曲のほか、マズルカ、ワルツ、プレリュードなどから選りすぐりの作品も奏でる。「エスプリ・ショパン」と題するこのプログラムはオレイニチャクにとって「現時点でのひとつの到達点といえるもの」。ポーランドの伝統が息づくショパンの調べに、じっくりと耳を傾けたい。
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