eぶらあぼ 2018.10月号
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58アレクサンドル・ラザレフ(指揮) 日本フィルハーモニー交響楽団ショスタコ「1917年」で極限の音楽体験を文:林 昌英第705回 東京定期演奏会11/9(金)19:00、11/10(土)14:00 サントリーホール問 日本フィル・サービスセンター03-5378-5911 http://www.japanphil.or.jp/ 日本フィルは常任指揮者ピエタリ・インキネンのもと好調を維持しているが、その水準を大きく引き上げた前任者アレクサンドル・ラザレフが登壇するとなれば、やはり特別な公演となる期待感が湧く。桂冠指揮者兼芸術顧問となっても、指揮台に立てば1秒も無駄にしないリハーサルで限界まで追求する“軍曹ぶり”は微塵も変わらず、ますます深みを増した名演を作りあげている。 11月の東京定期は、ラザレフ公演ではおなじみのグラズノフとショスタコーヴィチの師弟作曲家の組み合わせで、各々の交響曲を取り上げる。ラザレフが情熱を注ぐグラズノフは、完成した最後の交響曲となった第8番。1906年(ショスタコーヴィチの生年)の完成で、グラズノフらしい古典的な作風に内面性や円熟味が加わった、熱気と気品を併せもつ懐深い大作だ。 そして、ショスタコーヴィチはいよいよ第12番「1917年」が登場。3年前のこのコンビの第11番「1905年」は激烈極まりない壮絶さで、頭の中が真っ白になるような超名演だった。ロシア革命を題材とした作品で、第11番とは姉妹作的な内容をもつ第12番を彼らの演奏で聴けるとなれば、当然に別格の注目となる。ラザレフのショスタコーヴィチは読み込みの深さと表現の説得力が違う。今度の第12番は、ムラヴィンスキーの名盤もかくやという、日本で聴けるショスタコーヴィチの極北と言える演奏になる予感が漂う。作品の好き嫌いを超えて、とにかく“凄い音楽体験”をしたい人はすべて、この公演を体験せねばならない。アレクサンドル・ラザレフ ©堀田力丸水戸室内管弦楽団 第102回定期演奏会ヴィルトゥオジティ全開の意欲的プログラム文:山田治生10/19(金)19:00、10/21(日)18:00 水戸芸術館コンサートホール問 水戸芸術館チケット予約センター029-231-8000 http://www.arttowermito.or.jp/ 水戸室内管弦楽団(MCO)の10月の定期演奏会は、指揮者なしで、ストラヴィンスキーの「プルチネッラ」組曲、カバレフスキーのチェロ協奏曲第1番、ヴィヴァルディの「四季」が取り上げられる。名手揃いのこの団体は、総監督の小澤征爾が述べるように「指揮者がいなくてもアンサンブルができるオーケストラ」であり、これまでにも指揮者なしでのコンサートも行ってきた。 「プルチネッラ」組曲は、かつて小澤征爾ともCD録音を行った同管の十八番。合奏協奏曲的な作品であり、MCOの奏者たちがどんなソロを披露してくれるのか楽しみである。カバレフスキーの協奏曲のソリストは、メンバーでもある宮田大。2012年に小澤征爾&MCOとハイドンのチェロ協奏曲第1番を共演した彼は、若いながら今ではこのオーケストラの中核を担っている。カバレフスキーの第1番は、1949年に作曲された、ソ連の社会的リアリズムに即した難解でなく“平易な”音楽。 ヴィヴァルディの「四季」で独奏を務めるのは竹澤恭子。デビュー以来、日本が誇る世界的なソリストとして活躍している彼女であるが、近年は、このMCOやサイトウ・キネン・オーケストラに参加し、オーケストラ活動にも積極的に取り組んでいる。「四季」でも集中度の高い、情熱的な演奏を聴かせてくれることだろう。今回は、宮田と竹澤という比較的近年に加わったメンバーらの活躍により、今の水戸室内管の魅力がいっそう満喫できるに違いない。水戸室内管弦楽団竹澤恭子 ©松永 学宮田 大
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